飯野 健太郎氏(株式会社coordimate)

Q.これまでのキャリアについて教えてください。

2011年に新卒でNTTドコモに入社しました。入社当時、「俺は仕事ができるんだ!」と根拠のない自信を持ちつつ(笑)、配属先となる姫路支店で法人営業を担当していたのですが、そこで大きなミスを連続し、「自分がこの会社にいる意味って何なんだろう?」と根拠のない自信はすぐに崩れ去っていました。

そんなダメ社員ぶりを発揮し悩んでいる時、当時の上司から「皿洗いが皿を割る時は、さぼってる時じゃない。一生懸命皿を洗ってる時に割る。お前が皿を割るのは一生懸命やってるからだということは皆知っている。だから大丈夫。今まで通りの飯野のままで頑張れ。ただ、割る枚数は減らしてくれ。」と声を掛けてもらったことが、大きな転機となりました。そこからは「何のためにこの業務はあるのか?」「お客様は何のためにこの商品を買ってくださるのか?」という目的を常に意識するようになり、自然と営業の仕方やお客様や社内の方々とのコミュニケーションが変わっていったことで初めて「仕事をしている!」という感覚になったことを今でも覚えています。

そこからM&AやPMI、出資先の経営管理、出資目的を達成した会社の売却業務に従事、グループ会社へ出向も経験しましたが、法人営業として従事する中で着想した新規事業を起案し、社内の制度へ応募を始めたのが2019年、それから4年間チャレンジし続けました。2022年7月には「coordimate」の商用化を行い、2024年4月にドコモからスピンアウトするまでは兼業という形で新規事業活動を続けていました。

Q.新規事業(申請事業)のアイデアはどのように着想されたのでしょうか? 何かきっかけとなった出来事などがあれば教えてください。

我々は、自身のファッションを投稿すると、ファッション好きの一般男女「mate(メイト)」から「アリナシ」のリアクションやアドバイスといったフィードバックを最短で30秒でもらえるファッション相談アプリ「coordimate(コーディメイト)」を運営しています。そこで受ける相談の10%以上が試着室からの相談だったんです。直接、店員さんに聞く方が絶対に効率的なのに、わざわざcoordimateで相談してくるのはなぜだろう?と思ったのが試着DX事業を考えたきっかけです。

実際に私も店員さんに話しかけられないタイプなので、ユーザーの皆さんの気持ちがとてもよくわかるなと思いながら、試着に関するユーザーが抱える課題、企業側が抱える課題などを実証実験などを丁寧に行いながら深掘っていきました。

100年間試着体験が変わらなかったのは3つの壁「①伝統の壁:ニーズが変わらないので、そもそも変わる必要がなかった 」「②技術の壁:単純にコスパが合わなかった 」③情報の壁:プライバシーの問題を越えられなかった 」があったからだと考えています。

OMO化が進んでいく中で、試着室はECで言えば「カート」に当たる部分でとても重要です。さらに調べていくと、日本人全体で年間100億回程度試着をしていることも見えてきました。

一方coordimateユーザーの皆さまは試着室でmateに相談しお買い物ができている。またcoordimate上には試着室でのデータが溜まっている。知らない間に「技術の壁」と「情報の壁」を越えていることがわかりました。

100年間、100億回の質の高いデータを誰も取れていない中で、自分たちだけがそこを取れている。これは本当にチャンスだと思い事業化を進めてきました。

Q.出向起業制度の活用にあたって、社内調整はどのように進められたのでしょうか。

NTTドコモで新規事業に挑戦している時から出向起業については知っていました。NTTドコモ内で本制度を広めたのは実は私です(笑)なので、実際に自分がNTTドコモからスピンアウトし、本件の公募が始まった時には最初から応募することを選んでいました。

新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」という制度の運用が2023年7月から開始されており、私たち含め3件が2024年4月にスピンアウト一号案件としてスピンアウトしました。出口として出向起業が活用できるようにはなっていましたが、制度が運用され初めての案件だったので、社内での手続きや、外部との資金調達交渉など手探りで進めた部分は苦労しました。

Q.出向起業への応募に対して、所属企業の周りの社員の方、ご家族や身近な方の反応はいかがでしたか。

職場の周りの方々は4年以上挑戦し続けていることを知っていたので、「よく諦めずにそこまでいったね!」と温かい言葉をいただけることが殆どでした。

身近な家族、友人たちは常に応援し続けてくれていました。もちろん不安なこともあるのですが、家族から「絶対大丈夫!」と言われるだけで、不安な気持ちも持ちながら前に進んでいけていると思います。

Q.まず実現したいこと、目標やビジョンがあれば教えてください。

足元は、試着DX事業を本格的に立ち上げ、C向けサービスとも組み合わせながら「服を選ぶ」部分を科学できるようにしていきたいと思っています。

また、中長期的には今持っている事業アセットを活用して2つのことを考えています。

1つ目として、ファッションだけでなく、ライフスタイル全体においてプロではない一般の人の意見を聞けるような事業をめざしていきます。情報過多の時代において「悩み」や「迷い」のような個人から出てくる純粋なアウトプットに対して率直にフィードバックをもらえる場所が意外に少ないのではと思っています。私たちが構築している「相談の仕組み」はファッション領域だけではない領域でも普遍的に使えると思っています。実際に先日ファッションと親和性の高い美容領域のパートナーとの連携も発表させていただきました。

2つ目として、積極的に海外に進出したいと思っています。 これから経済成長してくる東南アジア市場ではファッション系のサービスがあまりないと聞いているので、今から参入し市場を抑えていく動きもできればと思っています。 最終的な事業の姿としては、ユーザーの行動(相談や診断、記録、コメントなど)に対してポイントやトークンを付与し、そのポイントやトークンを色々な場所で使えるようにすることで、行動することで生きていける世界にすることを見据えています。

Q.出向起業にあたっての意気込みをお聞かせください。

スピンアウトをして一番最初に思ったことは「私は会社に守られてきたんだな」ということでした。勤怠管理や交通費の申請など当たり前に行なっていたことでさえも、どうやってするのか、どんなツールを使うのかなど全部自分たちで決めなければいけない。これを数万人規模で「当たり前化」しているNTTドコモを見て、今までの先輩方が苦労の末に当たり前にしてくださったんだなと、そんなことは考えなくて自分の仕事に向き合えば良い環境に守られていたんだなと、事業とは全然違う部分での発見がありました。

私自身も経営者として、メンバーが当たり前のように事業に向き合える環境や、その環境の中で「こんな世界にしたい!」と事業について話していける状態を作っていきたいと思います。

また、事業としてめざす姿もありますが、折角なのであれば、その姿を実現しているという一つの証左としてドコモ発スタートアップから出た初めてのユニコーン(企業)になるという目標も持っています。そこまで持っていけるように、カッコつけず、自分たちらしく、ユーザーの皆さまと一緒に成長していこうと思っています。

「試着DX提供に向けた実証事業」について

BtoC向けには自身のファッションを投稿すると、ファッション好きの一般男女「mate(メイト)」から「アリナシ」のリアクションやアドバイスといったフィードバックを最短で30秒でもらえるファッション相談アプリ「coordimate(コーディメイト)」を運営しています。

BtoB向けには100年間根本的に体験が変わらない一方、年間100億回実施される「試着体験」をDXしていく試着DX事業「coordimate for Enterprise」を行っています。

飯野 健太郎氏

いいの けんたろう

代表取締役CEO

自己紹介/略歴:

2011年株式会社 NTTドコモ入社。
入社後、法人営業、M&A・PMI・出資先の経営管理、ドコモグループの教育事業の中核子会社での
教養コンテンツの企画・制作・運用の責任者や中期戦略策定などに従事。
2019年より兼務で新規事業の立ち上げに着手。4年間の挑戦を経て2022年7月にcoordimateを立ち上げ、
2024年4月よりドコモの新規事業共創プログラム「docomo STARTUP」における「STARTUPコース」適用第一号案件群としてスピンアウトし現職。

Profile Picture

会社概要

所在地東京都渋谷区道玄坂1丁目10番8号渋谷道玄坂東急ビル2F-C
WEBサイトhttps://coordimate.co.jp/
問合せsupport@coordimate.co.jp