清水 雄一氏(株式会社DIFF.)
足型職人との研究プロジェクトでの気付きをきっかけに、新規事業プログラムへ応募
―まずは清水さんのこれまでのキャリアについてお伺いできますか。
(清水)サッカー部に所属していたのと、ものづくりが好きだったことから、「サッカーシューズを作りたい」という思いがありました。その目標のために、高専でものづくりを学び、大学では神戸大学発達科学部で人体について学び、2012年にミズノへ就職しました。
最初は研究開発部門に配属され、ゴルフ用具や野球の競技動作に関する基礎研究に4年間従事しました。ずっと希望を出していた甲斐もあって、5年目からサッカーシューズ開発に関わる部署へ異動しました。
―学生時代からの目標だったサッカーシューズ作りに携われた、順風満帆なキャリアに見えますね。
(清水)ですが、ここで壁にぶつかったんです。「新しいサッカーシューズ」を作りたいと、色々と試みたのですが、サッカーシューズという伝統的な商品において、新しいことを仕掛けるには想像以上に制約があることが分かったんです。サッカーシューズに関わりたいという思いとは裏腹に、必要最低限のアウトプットしか出せていないもどかしさもあり、もしかしたらあまり向いていないのかも…と悩み始めたタイミングでした。
―新規事業を企画し始めたきっかけがあったのでしょうか。
(清水)2019年頃に、大きく2つのきっかけがありました。ひとつは足型(ラスト)職人との研究プロジェクトです。シューズというものは、ラストと呼ばれる足の形をした木型をベースに設計されていくのですが、そのラストがいわゆる”職人技”で作られていて、これを形式知化するというプロジェクトでした。職人さんと何度もディスカッションを行い、並々ならぬ細部へのこだわりに感動する一方で、”平均的な”足に合わせてラストが作られ、それに合わせてシューズが作られていることに疑問を持ち始めました。最も多くの人のニーズに応えるという意味では当然そうすべきなのですが、平均的ではない足の形をしている人達のペインの存在に気付いたんです。
もうひとつは、社内での新規事業プログラムの開始です。ミズノ社員なら、誰でも応募できるプログラムが始まり、そこに手を挙げました。最初は現在とは全く異なる事業案で提案していたのですが、あえなく落選。ですがその過程で新規事業に関わる面白さに気付き、異動のタイミングとも合致し、プログラムの事務局側として新規事業に関わることになりました。
個人的な社外活動を続けるなかで、左右別サイズのシューズ販売という事業案を着想
―新規事業プログラムの事務局側としては、どのような活動をされていたのでしょうか。
(清水)業務としては、プログラムの企画・運営、応募案件の伴走支援、を行っていました。とはいえ、自分自身は応募して落選した身であり、偉そうなこといえないなと思い、自らの事業案も個人的にブラッシュアップを続けていました。
―個人的な活動とは、どういったことをされていたのでしょうか。
(清水)大企業の若手・中堅社員を中心としたコミュニティであるOneJapanが主催する大企業挑戦者支援プログラム『Change』に参加しました。その中でユーザーヒアリングやビジネスモデル立案などを進めて、現在の事業案の基となる「左右別サイズのシューズ販売」という企画に至りました。この事業案が、そのプログラムでの最終ピッチコンテストでファイナリストに選ばれたこともあり、事業化に向けた想いを強くしていきました。
―これまで左右別サイズに対応するサービスはなかったのでしょうか。
(清水)オーダーメードという方法がありますが、利用できるのはプロ選手のような高い競技レベルの方に限られると思います。より多くの方々にパーソナライズした製品を届けるには、もっとデジタルを活用するべきだと考え、まずは左右別サイズで注文ができるECサイトの運営から始めるという企画でした。
フルコミットする方法を探り、出向起業への応募について社長に直談判
―今回、出向起業に至ったきっかけは何だったのでしょうか。
(清水)社内でも何度か事業化に向けて検討したこともあったのですが、メーカーとしてはボリュームゾーンである”平均的な”足にあわせた製品作りというのが主流なので、ニッチな領域に手間をかけることへの理解を根っこの部分で得ることが難しかったと感じています。これはメーカーゆえのジレンマですね。
ずっと考え続けてきたアイデアなので、フルコミットで覚悟を持ってやってみたいと考えるようになり、出向起業という選択肢を見つけました。”始動”プログラム※で滞在したシリコンバレーでの経験もその覚悟の後押しになりましたね。この状態で終わってしまうのは嫌だ。色んな起業家から話を聞いて自身のコミット度合いが足りないと感じたんです。
※始動プログラム: https://www.meti.go.jp/press/2021/02/20220214006/20220214006.html
―辞めて起業ではなく、出向起業を選んだ理由は何だったのでしょうか。
(清水)理由は色々ありますが、やはり私はミズノという会社が好きなんです。新規事業プログラムの事務局の立場としても、ミズノにおいて新しいことに挑戦する文化づくりというのが重要テーマでした。私自身が外に出て挑戦し、スタートアップとして事業を立ち上げた経験を得ることが、ひいてはミズノの文化を変えていくことに繋げられるのではないかと。なので、雇用という形で関係性を維持できる出向起業という形が、自分にとってベストな選択肢だったと思います。
―社内での調整や交渉はどのように進められたのでしょうか。
(清水)まず、社長に場をいただけないかと相談したんです。今思えば、いきなり社長というのは無茶だったのかと思いますが、新規事業プログラムの事務局の立場からも、社長自身が新しいことにチャレンジすることへの理解があり、チャレンジする文化作りに対しても思いがある方だと感じていたので、出向起業がそこに繋がり得るということを説明しました。
結果として、社長からGOを出してもらえたので、その後は自分でもびっくりするくらい話が進んでいきました。人事面などの細かい調整はあったものの、社長面談から1-2週間で、出向起業を行うことが正式に承認されることとなりました。
ミズノ以外の靴も扱うことを前提にサービスの価値を高め、靴と人の関係性を
―今後の事業展開を教えてください。
(清水)まずはECサイトを立ち上げ、左右別サイズでのシューズ販売のオペレーションを確立させていきます。ランニングシューズから始め、他の商品などにもラインナップを拡げていきます。ミズノ製品以外の商品も取り扱い、足のサイズが左右で異なる人の課題解決を目指していきます。
もう少し中長期的な話としては、人と靴の関係性を次のステージに進めたいなと思っています。自分に合う靴とは、サイズだけではく感性なども含めてマッチングするべきで、そこのロジックを見つけていきたい。左右別サイズのECサイトによって、デジタルを使ってパーソナライズしていく基盤が確立できれば、もっと色んな展開が可能だと考えています。
―ミズノとは今後、どのように関わっていくのでしょうか。
(清水)ミズノ以外の製品も扱うことが前提なので、法人設立時点ではミズノからの出資は受けていません。ですので、仕入れ先の一つという位置づけがベースとなりますが、ミズノが全国で行っている試し履きイベントの活用など、協業できるところは協業していき、顧客に対して価値を創造していく点で、思いを共有していきたいです。
―最後に、清水さんにとって出向起業はどういう制度でしょうか。
(清水)唯一無二の機会を得られたと思っています。ミズノへの思いはありつつも、中にいるままではスタートアップの経験は得られない。ミズノの社員である立場も残しつつ、スタートアップとしての挑戦、経験を積むということは、この制度がなければできなかったと思います。
ミズノとしても、私を出向起業させたというのは、挑戦する文化づくりに向けた実証実験のように捉えていると思いますので、寛大な判断をいただいた社長はじめ皆様への恩返しのためにも、なんとかこの事業を成功させたいと思っています
清水 雄一氏
代表取締役社長
自己紹介/略歴:
1988年生まれ。
2012年 ミズノ株式会社に入社。新規事業プログラムの運営に従事。2022年11月出向起業。大企業挑戦者支援プログラム「CHANGE by ONE JAPAN」ファイナリスト。
経済産業省/JETRO主催次世代イノベーター育成プログラム『始動Next Innovator2021』シリコンバレー選抜。
「左右別サイズシューズ購買サービス『DIFF.』」について
独自開発した『どこのメーカーのシューズでも簡単に片足ずつ流通させることが出来るプラットフォーム』を活用し、左右で履くべき靴の大きさが異なる方に向けた価値提供を実施します。
左右で足の大きさが5mm以上異なる方は5%存在し、さらに市場のシューズは両側セットでしか流通しておりませんので、どちらかのシューズが自分の足の大きさに必ず合わないという状態が当たり前になってしまっています。
本事業では、まずランニング領域でシューズの片足購入という新しい価値を認知/活用頂き、世の中の新しい当たり前にすることを目指します。
会社概要
所在地 | 大阪府大阪市北区梅田1-1-3大阪駅前第3ビル29階 1-1-1号室 |
WEBサイト | https://corp.diff-shoe.com/ |