川上 太一氏(株式会社Each)

Q.これまでのキャリアについて教えてください。

2007年に株式会社ルミネに新卒入社をし、新宿や横浜、池袋など巨大なトラフィックのある駅立地でショッピングセンターの管理・運営に10年ほど携わっていました。元々ファッションもですが、音楽や食、スポーツ、お笑いなど色んなことに興味があったので、あらゆる業界と接点を持つことができる商業デベロッパーの仕事は、刺激的で充実した日々でした。

2018年からは本社総務部へ異動となり、人事として採用業務をメインにしながら障がい者雇用の担当もすることになりました。人事業務は初めてのことばかりで、業務に忙殺される日々でしたが、人と人との出会いや、社員の成長といったシーンを目にする度に、人事の仕事のやりがいを強く感じるようになりました。

そういった中でも、障がい者雇用についてはまさに「経験ゼロ」からのスタートでした。たくさん失敗をし、障がい者福祉の専門職の方々にサポートしてもらう中で、自らも正しい知識を得たいと思い、2021年にジョブコーチの資格を取得し、2022年には日本社会事業大学の通信教育科に入学し、2024年3月に社会福祉士の資格を取得しました。障がいを持つ人も、一緒に働くスタッフも、それぞれが理解を深め協調しながら働く姿を見たときは、何にも代えがたい喜びを感じましたね。

Q.新規事業(申請事業)のアイデアはどのように着想されたのでしょうか? きっかけとなった出来事などがあれば教えてください。

ルミネで障がい者雇用に取り組むにあたり、2019年4月から週に1回のペースで精神保健福祉士の方にサポートを受け始めました。障がい者の新規雇用から定着支援、社員への障がい者雇用の勉強会などを、実務をベースに指南してもらうことで、急速に会社にノウハウが蓄積され、2022年には法定雇用率(法律で定められた社員数に対して雇用すべき障がい者の割合)を達成することができました。

障がい者雇用を推進する中で、障がい者福祉の専門職の方だけでなく、さまざまな企業の人事の方と交流することが増えるにつれ、「企業と福祉の見えない壁」のようなものを感じました。私自身が経験した「福祉専門職が企業で働く」ということは、決して一般的ではないということに気づいたんです。

日本では2008年から公教育にスクールソーシャルワーカーが導入され、就学時における福祉の困りごとをソーシャルワーカーに相談することが一般化してきています。企業においても、その企業毎の福祉ニーズに対応する専門職が、会社内で活躍することが一般化していく可能性を強く感じています。

目指すゴールは共通でも、容易に交わらない企業と福祉をどうしたら近づけられるか、と考えたときに、企業の中で福祉専門職が活躍する事例をもっと増やしていきたい。世の中へ、数多ある障がい者雇用に悩む会社へこのスキームを広めたいという考えに至ったことが、事業化のきっかけとなりました。

Q.出向起業制度の活用にあたって、社内調整はどのように進められたのでしょうか。

元々は出向起業制度を知らず、今後について悩んでいた時期に、上司から出向起業制度についての情報提供をいただき、同じJR東日本グループですでに出向起業をされている方を紹介してもらいました。

お話を伺う中で、起業する社員にとっても、出向に出す会社にとってもメリットのある制度であると感じ、制度の活用を考えるようになりました。

Q.出向起業への応募に対して、所属企業の周りの社員の方、ご家族や身近な方の反応はいかがでしたか。

自社の前例として、自ら会社を起業する社員というのがあまりいなかったこともあり、一緒に働いていた同僚からは心配する声もありました。社員一人一人の方に丁寧に説明することも不可能でしたので、これからのチャレンジする姿を見せることによって、新しい働き方や会社との関係性を知ってもらうとともに、周りからも安心してもらえるよう、頑張っていきたいと思います。

家族は、起業することに対して「自分のやりたいことなのであれば応援する」という姿勢をとってくれてはいましたが、やはり、口に出さずとも先行きの見えない不安はあったようで、出向起業制度の活用について説明した際には、とても安心したような反応がありました。

自分の頭の中では「起業するなら裸一貫でやるぐらいの覚悟が必要」といった考えが常にあったことも事実ですが、友人や信頼のおける先輩などに相談した際にも、「活用した方がいいと思うよ」と皆さんに背中をぐっと押してもらったことで先へ進むことができました。

Q.まず実現したいこと、目標やビジョンがあれば教えてください。

事業の核である「企業内に福祉専門職を配置する」というスキームは、まだ一般的とは言えませんが、サービス内容に共感していただける企業や福祉専門職の方が多くいらっしゃいます。まずは、このスキームでの成功事例を着実に積み上げていき、その先にあるEachのビジョンの「企業が福祉とともにあることが当たり前の世の中に」を実現したいと考えています。

また、当事業は福祉専門職のキャリアの一つとして「企業内で働く」という選択肢を提示したいという思いがあります。福祉系資格の保有者は7割以上が女性といわれています。ライフステージが変化して、福祉の仕事が続けられないという方も、週1回から企業にて福祉の知識・経験が活かせるというのが当事業の特徴です。

福祉専門職の活躍の場が広がれば、福祉に興味を持つ方も増えると思うので、そこから好循環が生まれていくことを期待しています。

Q.出向起業にあたっての意気込みをお聞かせください。

あまり立場にとらわれずに、自分が思う「もっとこんな未来になったらいいのに」という考えに共感してくれる人たちと、一緒になって実現できたらと思っています。それは事業を運営する側の人だけでなく、サービスを利用してくれる企業の方も、障がい者福祉に携わる支援者も、もちろん障がい当事者も。

見えない壁があるならば、それを力で壊すのか、壁が低くなっているところを探すのか、穴を掘ってみるのかなど、みんなで知恵を出しながら、企業と福祉の距離を近づけていくよう色んなことにチャレンジしていきたいです。

「障がい者雇用のトータル支援サービス事業」について

障がい者の新規雇用及び定着に悩む企業に対する支援事業になります。

具体的には、障がい者雇用の専門的な知識と経験を有している福祉専門家(社会福祉士、精神保健福祉士、作業療法士、ジョブコーチなど)を、企業の人事部等に配置し、週1~2回程度実務を行いながら企業の安定した障がい者雇用の実現及び社員のリテラシー向上を図ります。

【福祉専門家の主な実務内容】障がい者の新規雇用の場面において、障がい者福祉事務所や特別支援学校、ハローワークなどとの連携、実習の受け入れや採用面接のサポートなどを行う

川上 太一氏

かわかみ たいち

代表取締役社長 

自己紹介/略歴:

2007年に株式会社ルミネに入社。
ショッピングセンターの運営・管理業務を経て、2018年から総務部人事に異動。
採用、人事異動、制度新設など多岐にわたる業務に携わる中で、障がい者雇用における会社の課題に取り組む。
2022年に株式会社Eachを設立。社会福祉士、ジョブコーチの資格を保有。

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会社概要

所在地東京都杉並区荻窪5ー30ー12 グローリア荻窪713
WEBサイトhttps://each-tokyo.co.jp/
問合せcontact@each-tokyo.co.jp