福澤 茂和氏(株式会社GAZIRU)
既存事業ではこれまでコネクションがなかった、新たな領域へ自らリーチしていく
―創業されるまでの経緯を教えてください。
(福澤)私はNECで大手通信キャリア向けの事業を担当、ちょうどフィーチャーフォンからスマートフォンに変わるタイミングのときになりますが、当時は通信速度の向上や通話以外の機能の発展が目覚ましく、何か新しい付加価値を提供できないか日々考えていました。スマートフォンを介したビジネスが今後拡大すると確信しており、新規事業開拓を中心に取り組んでいたところです。
その際、NECの強みである指紋認証や顔認証に代表される画像認識技術を使わない手はないと考え、NECの研究所に何度も相談していました。顔や指紋だけでなく、さまざまなモノを認識できる強い技術がNECにあることを知り、キャリア向けのサービスとして事業化を進めてきた次第です。その新規事業開拓の中で出会ったのが、研究所に所属していた高橋さんです。スマートフォンを活用した画像認識技術、特に同一の製造物であっても個々を識別できる「物体指紋認証技術」は新しい市場・顧客開拓が可能な付加価値を生み出せると考え、“株式会社GAZIRU”設立に至りました。
(高橋)NECに入社して約9年間、研究所に所属してこの事業のコアとなる「物体指紋認証技術」を当時の上司と一緒にゼロから作ってきました。だいたいカタチになってきたところで福澤さんと出会い、事業化検討を始めました。スマートフォンのアプリケーションとして搭載する、製造業界や生産現場にプロトタイプを持っていくなど、研究だけでなく画像認識技術の事業化・製品化に向けて具体的にさまざまな検討や活動をしてきました。その活動を通して、技術が持つビジネスや事業の大きな可能性を感じ、福澤さんと一緒に出向起業するに至りました。
―出向起業という選択に至るまでに、社内で事業化するなどの検討はありましたか。
(福澤)NECでも物体指紋認証技術は事業化されており、もともとのNECのお客様・クライアント、特に製造業向けに同技術を活用したさまざまなサービス開発を進めています。一方で、我々は同技術をスマートフォンのアプリケーションとして搭載することでどのような新規サービスが提供できるだろうか?という視点で検討を進めてきました。当初、NEC社内での事業化ももちろん検討しましたが、大きな売上が見込める大手製造業向けの事業が主体であり、他の市場へ進出することは難しかった部分がありました。NECの既存事業の領域以外にも大きなビジネスチャンスはあると信じており、これまでコネクションを持っていなかった市場開拓を行うため、外に出て事業化するという決断に至りました。
技術の可能性を信じて、外に出て、顧客視点の価値創造を目指す
―古物商・リユースに着目したきっかけを教えてください。
(福澤)既存プロジェクトの一つとして、物体指紋認証技術を活用したブランド品の真贋判定や個体識別サービスを行っていました。これは、リアルな情報とサイバー空間にあるデータベースとの情報を繋ぎ、スマートフォンがあれば簡単に真贋判定が出来る、という価値を提供するものです。サイバー空間ではデータベースとして電子的に情報が管理されていても、それらデータと実物との紐付けの手段がなければ十分に活用できない、というのが我々の考えです。
リユース品の場合、流通経路は複雑化していると同時に、その製品がどこで使われたのかといった商品個々の履歴情報や、リユース品として流通に至った経緯等の情報に大きな価値があります。リユース品を個体管理できる手段が確立されているとは言えない昨今において、我々の技術は商品そのものの画像からサイバー空間で管理されている付加価値の高い情報とを結びつけることができます。技術がもたらす利便性や価値をもっと世の中に広く届けるために、古物・リユースの分野を導入事例・ユースケースとしました。
―この事業を社外でやる意義はどこにありますか。
(福澤)繰り返しになりますが、NEC内での物体指紋認証技術活用のメインストリームは製造業です。大企業の製造ライン、工場全体の管理や生産性の向上、工場内でのトレーサビリティといったソリューションが主となります。モノづくりの高度化・高信頼化に貢献するために、コアとなる画像認識技術の強化に加えて必要な周辺技術も併せて取り込み、システムとして納める形です。
一方で、本技術の活用先は製造業だけではなく、流通業や小売業をはじめとした多くの業界で活用できるシーンがあると常日頃考えています。いまや当たり前のように普及しているスマートフォンを使って個体識別サービスを提供できるようにしたとき、どのような顧客価値を新たに提供できるのか?そのビジネスの可能性を探るための市場調査や新事業開発を行いたいという思いが強くありました。端的に方向性の違いがあったということです。
―実際に外に出てみて気付いたことはありますか?
(福澤)社内では製造・開発・営業とそれぞれの役割に集中してそれぞれの領域を超えてアクセスすることは難しい面がありましたが、出向起業というカタチであれば、お客様へ直接アクセスできる環境に身を置くことが可能になりました。また、予算の使用先というものも所属元企業ではある程度、対象範囲が限られています。部署ごとに機能分解されているので、大きな方向性の中で、動かざるをえません。出向起業すればそのような大企業の制約から離れ、どんな事業計画をたて、何にお金を使うかは我々が自由に決めることができます。当然、そこには責任も伴いますが。
―技術者の立場としてはどんな変化がありましたか?
(高橋)研究所にいたころは、いかに正確に識別するか、高速に処理するかといった技術性能を追求してきましたが、いまは「実用」という観点が徹底して求められています。お客様の声を直に聞き、「使い勝手」という観点で技術開発を見つめなおす、そんな機会が増えました。
「出向起業」で減らせるリスク、あとは自分の可能性を信じて一歩踏み出すかどうか
―本補助金に申請された理由をお伺いできますか。
(高橋)我々が開発する技術を使った新事業を世の中に出した時に、果たして評価していただけるのかが不安でした。”株式会社GAZIRU“が提供する技術やサービスに可能性を感じてもらえるのか?補助金に申請することは、VCへの説明もそうですが、我々の考えや仮説がビジネスとしてどう評価されるのかを確認するいい機会だと考えました。また、スタートアップにとってお金は一円でも無駄にはできません。そんな中、補助金事業に採択されたことは投資の後押しを受けたようで心強く感じました。
―出向起業を検討している方に一言お願いします。
(福澤)社内から社外に出て、私はやらなければならないことの多さに率直に驚きました。社内にいるとそれが猶予されていたことや、サービスを提供するお客様もこういうことをやっているんだと実感しています。新聞を読むことで世の中を分かったつもりになっていましたが、社外に出たことで世の中の人が当たり前に困っていることに気付く、それに対して自分たちが持っている技術を使えば解決できる可能性があることを知ることができました。企業にいては気付きづらいことに、出向起業は気付かせてくれたと感じています。
(高橋)社内の組織にいる間は、やはり会社や組織の方針・ビジョンのもとでさまざまな仮説や事業計画を立てる必要がありますが、これは、会社や組織に守られていた、ということでもあると感じています。
今、本当の意味で自身の裁量次第になる機会を得られたことは、恵まれていると思うと同時に、自分の研究職としてのキャリアを考えると、正直不安もありました。ですが、出向起業という制度を使うことで、私自身のキャリアに対するリスクも最低限におさえることができますし、起業した会社の運営資金に関しても補助金を活用できるという点は大きいと思います。同じように不安を感じている方でも、興味がある方は思い切ってやってみて欲しいです。
福澤 茂和氏
代表取締役社長
株式会社GAZIRUについて:
当社の名称は、
”画像から識(し)る” → ”画識る(がじる)” → ”株式会社GAZIRU”
となっています。
インターネットが普及した現在、サイバー空間には膨大な情報が溢れ拡大を続けています。このような、所謂”ビッグデータ”と現実空間を接続するために、当社は起業しました。サイバー空間上のビッグデータとリアル空間を紐づける技術を提供します。
「画像認識サービスによる商品トレーサビリティ実証事業」について
・流通・リテール業界において拡大の一途を辿る模倣品被害の解決を糸口に、画像認識を活用した商品の個体管理・トレーサビリティのビジネスモデルを設計する。
・まずは、市場規模が年々拡大し、2022年には約3兆円と予測される二次流通(リユース)市場への参入を進め、高級ブランド商品にフォーカスしたトレーサビリティサービスの国内シェア獲得を目指す。