小林 俊氏(株式会社KAMAMESHI )
Q.これまでのキャリアについて教えてください。
大学時代、金型メーカーの社長に進出先のフィリピンの工場に連れていっていただいたのが、最初のキャリアを選んだきっかけです。現地の進出企業の経営者の方々にインタビューをする中で、日本のモノづくりの誇りと素晴らしさを学ぶ中、製造業を広く支えて日本の競争力の強化と世界の発展に貢献したいと思うようになり、2010年に当時の新日本製鉄(現:日本製鉄)へ入社しました。
最初は、千葉の君津製鉄所(現:東日本製鉄所君津地区)で生産管理を担当。生産計画の立案から進捗管理・コスト改善の検討を進め、現場の方々に支えて頂きながら何とか仕事を回せるようになりました。本社に異動後は自動車向けの特殊鋼の営業を担当。お客様と一緒に「鋼材×加工」で付加価値を高めることに面白みを感じ、月20回以上はお客様先に足を運ぶと決めて営業活動に励んでいました。
その後、企画部門で事業部の方針決定や中長期的な施策検討にも携わったことも貴重な経験です。八幡製鉄所(現:九州製鉄所八幡地区)では生産構造を変えるプロジェクトの実行を進め、コロナ禍で非常に大変な状況ではありましたが無事に完遂させることができました。2022年からは東南アジアでの事業を統括するタイの事務所に着任、多様な国のお客様への訪問を通して海外マーケットの変化の速さを日々感じながら、同時に当初の志だった日本のモノづくりに貢献したいという想いを強くしていきました。
Q.新規事業(申請事業)のアイデアはどのように着想されたのでしょうか? 何かきっかけとなった出来事などがあれば教えてください。
製造業では、その要となる製造設備を長期に渡って使用します。そのため、構成部品の生産が先に終了してしまい、メンテナンス時や故障時に交換が必要な部品が手に入らない状況が起こっています。同時に、これまで現場を支えてきた高い設備保全技術を持つベテラン社員や、中小企業を支えてきた設備メンテナンス業者・商社の数も年々減ってきているのが現状です。
私たちの「KAMAMESHI」という事業では、会員企業の皆様に利用料を頂きながら、大きく3つの設備保全に向けたサービスを提供します。一つ目は、企業間で売買ができるECサイト(必要な部品を調達・不要な滞留予備品を販売が可能)、二つ目は、設備予備品の社内在庫管理システム(携帯やタブレットで現場の管理作業でも効率化)、そして三つ目が、設備技術人材による保全コンサル(棚卸し代行によるリスク調査・保全の基礎教育講座)です。また、今後はKAMAMESHI会員企業によるコミュニティ形成も進め、共に未来を創りイノベーションを起こす仲間になれるように努めていきたいとも考えています。
今振り返れば、製鉄所で生産管理を担当していた頃から計画的に生産活動をしているにも関わらず、日常的に設備が故障した際の影響の大きさや設備復旧、リカバリー対応の大変さを身に染みて感じたことが原体験だと思います。また、営業時代にはその設備老朽化の課題が製造業全体に広がっており、深刻化していることを知ったんです。特に、中小企業のお客様はリソースも限られる中で対応に困り果てている様子を目の当たりし、何とかお支えしたいと事業の仕組みを考えるようになりました。
事業検討にあたっては、100社以上の製造業の方々へのヒアリングを実施。ある鍛造メーカーの社長にお悩みをうかがう中で、各社が持つ予備品をマッチングできればという声からアイデアを着想し、事業案の方向性を定めてPoCをしながら課題とソリューションをまとめていきました。
Q.アイデアを事業化、出向起業へと行動に移された理由を教えてください。
新しいアイデアを事業化することに挑戦してみたいという想いもあり、経済産業省・JETROが主催する次世代イノベーター人材育成プログラム「始動」に7期生として参加、国内プログラム・米国シリコンバレー選抜にも採択され、最終的にはDEMO DAYにて「優秀賞」をいただいたことは大きな自信になりました。
事業化への挑戦は私自身の想いでもありましたが、何よりお客様のお悩みの声を直接たくさん聞いているうちに、自分がやらなければならないという使命感を感じたからでもあります。始動プログラムでの学びや出会いによる影響は非常に大きく、自分も社会課題を解決するためのアクションを起こす(Doerになる)ことを決意しました。
日本のイノベーションには大企業の変革が必要不可欠だと考えています。今回の取り組みを通して、大企業側にも新規事業や起業の経験値が蓄積されればと思っています。まずは、私自身が今回の出向起業制度を通して製造業の中小企業の課題解決を進め、日本製鉄のような大企業の変革の1歩となることを目指したいですね。
私は、日本製鉄という会社が大好きですし、これからも大きな可能性がある会社だと信じています。また、鉄という素材を通して、既に製造業に広く繋がりを持っている日本製鉄と、日本の製造業をつなげ支え合う仕組みを提供するKAMAMESHIは、事業の親和性も非常に高いと考えていますので、連携することでシナジーを創出することが出来れば嬉しいです。
Q.出向起業制度の活用にあたって、社内調整はどのように進めめられたのでしょうか。
まず、社内業務が疎かになってしまっては信頼を得られないと考え、従来以上に気を引き締めて業務でもアウトプットや成果が出せるように必死に努力しました。苦労という意味では、日本製鉄での仕事とKAMAMESHIの事業検討、それに家庭とのバランスを取ることは時間的にも非常に大変でした。
大企業の中でこういった新たな取り組みを実現するための難しさは色々ありましたが、それは当たり前だと思って取り組みを続けました。前例が無く、社内で誰も答えを持っている訳ではないため、本当に手探りではありましたが、とにかく色々な場を使って自分の想いや実現したいことを話すようにしました。そういった場を提供くださった社内の方々には感謝の気持ちでいっぱいです。
社長からは直接、「応援するから頑張れ」とお声掛けいただいた時は感動で震えました。幸いにも社内で多くの方から応援いただいたおかげで、諦めずに進んでこられたと思います。今も事業推進に向けて連携やサポートの申し出をたくさんいただいており、改めて本当に懐の深くて良い会社に勤めることができて幸せ者だと感じています。
Q.出向起業への応募に対して、家族や周囲の方の反応はいかがでしたか。
自分のやりたいことを優先させてもらい、家族には感謝しかありません。直近まで家族帯同で駐在していたタイからの帰国が今回の起業で予定よりも大幅に早まり苦労をかけている部分もありますが、応援してくれる家族のためにもしっかりと頑張りたいと思います。
社内では、正直、最初は出向起業制度自体を理解いただきにくかったのが実態でしたが、今回の私の起業を通して、少しずつ社内での認知も高まってきていると思います。
色々な選択肢を考えた上で「この仕組みがベストである」としっかり説明できたので、会社側にもポジティブに受け止めていただくことができました。今では、日本製鉄の人事施策の一つとして対外的にも打ち出されています。今後も出向起業制度の認知が拡大し、大企業から社会課題解決に向けてアクションを起こす人材が増えてくることを願っています。
Q.まず実現したいこと、目標やビジョンがあれば教えてください。
まずは、設備保全の3つのサービスを2024年3月までに順次、正式ローンチしていくことを目指しています。
鍛造・鋳造・切削・金型・熱処理など日本のモノづくりを支えてきた「業界軸」と大田区・愛知・浜松・燕三条・東大阪・北九州など製造業が集積している「地域軸」でKAMAMESHIの仕組みを提供しながら、会員企業の拡大を図っていきます。さらに、タイ・ベトナム・インドなど海外展開を念頭にした開発と運用実証も既にスタートしており、2025年までの海外ローンチを目指して準備を進め、将来的には、データを蓄積していくことによって、より高度な予防保全の提供や設備メーカー様への情報提供、災害時の復旧支援などの提供価値を広げていきたいと考えています。
そして、会社名にもなっていますが「製造業を同じ釜の飯を食べる仲間」にしていきたいですね。フラットな横の繋がりを大切にしながら製造業に持続可能な仕組みの提供と支え合いの文化を醸成し、日本の素晴らしいモノづくりを未来に繋いでいきたいと思っています。そして、モノづくりの仲間が協力し合い、世界中にあふれる製品アイデアやニーズの多様化に応えていくことができれば、新しい日本の製造業の勝ち筋を作れるのではと思っています。世界中のどこからでもKAMAMESHIメンバーに投げ込めば、何でもカタチに実現してくれるというように。
Q.出向起業にあたっての意気込みをお聞かせください。
「結果を出すことはプロだから当たり前。その上で、商売をやらせてもらっている国・地域・社会の発展にどれだけ貢献できるかということにこだわっている」。学生時代に聞いた言葉がずっと頭に残っています。
私が出会ったカッコいい経営者のように、人のことを大切に考え思いやりと行動を持って信念を通せる人になりたいですね。自分のビジョンの実現には多くの方の協力と連携が必要になりますので、自分自身が多くの人に仲間になっていただけるよう、愚直に努力し続ける覚悟です。
「製造業の設備保全プラットフォーム「KAMAMESHI」」について
製造業では、設備の老朽化の課題が深刻化しています。㈱KAMAMESHIは、製造業の企業間を横に繋ぎ、デジタル技術と企業間の支え合いで課題解決の仕組みの作りに挑戦しています。
事業内容は、会員登録制の設備部品管理&シェアリングプラットフォーム「Kamameshi」の提供です。設備部品のWEB管理システムにより、在庫管理の標準化・拠点間の情報共有・棚卸し負荷軽減などの改善を進めながら、会員企業間での売買マッチングにより、廃番部品の調達リスク低減や社内滞留品の販売消化を実現し、各社で長期滞留したり廃棄される予備部品の有効活用を促します。
更に、設備技術人材を派遣し、設備保全の教育指導や既設部品調査など、各社の課題に寄り添いながら共に持続可能なモノづくり環境の実現を目指して取り組みます。
小林 俊氏
代表取締役CEO
自己紹介/略歴:
2010年:新日本製鉄㈱(現:日本製鉄)に入社。君津製鉄所にて生産管理に従事
2014年:営業部門にて自動車向けの特殊鋼棒鋼・線材の営業を担当
2018年:企画部門にて中期計画の立案や生産構造対策に従事
2019年:八幡製鉄所にて生産管理課長と構造対策プロジェクトマネージャーを担当 2022年:タイの東南アジア統括事務所にて海外市場のマーケティング調査に従事 2023年:株式会社KAMAMEHIを創業
会社概要
所在地 | 東京都大田区南六郷3-10-16 |
WEBサイト | https://kamameshi.com/ https://kamameshi.com/lp/ |
お問い合わせ | contact@kamameshi.com |