杉山 憲史氏(オーマッチ株式会社)
社内起業制度“ソフトバンクイノベンチャー”で集まった3人
―まずは3人チームでの出向起業ということで、皆さんのキャリアと役割を教えてください。
(杉山)オーマッチ株式会社代表取締役CEOとして経営全般を担当する杉山です。キャリアとしては、2015年にソフトバンク株式会社に入社し、家電量販の営業担当を4年ほど経験した後、社内公募でグローバル事業本部に異動。主に海外事業の新規事業開発を担当していました。そこで、大企業ならではのスケールの大きい事業を担当し、それはそれでやりがいはあったのですが、学生時代にベンチャーでインターンをしたときの体験が頭の中にあり、自分の事業をもっとフレキシブルにやりたいという思いが強くなり、社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」を活用しました。
(鈴木)オーマッチ株式会社取締役CXOとして、主にUIデザインを担当する鈴木です。2015年にソフトバンク株式会社に入社し、ネットワークエンジニアとして採用されました。4年程前に新規事業の部署に異動して、UIデザイナーとして、プロダクト横串でUIを設計する業務をしていました。学生時代からものづくりに興味があり、より早い開発スピードで、ユーザーフィードバックを得ながら開発できる環境に魅力を感じて、オーマッチに参画しました。
(山口)オーマッチ株式会社取締役CTOとして、主にプロダクト開発を担当する山口です。2016年にソフトバンク株式会社に入社し、位置情報に係るサービスのプロダクトマネージャーとして、下流から上流まで広範囲に担当していました。元々、大企業のアセットを使って自分のやりたいことができる…という環境を探して就職活動をしていたこともあり、入社当時からイノベンチャー制度の利用を目論んでおり、オーマッチに参画しました。
―ソフトバンクイノベンチャーとはどんな制度だったのでしょうか。
(杉山)業務時間外で新規事業案を検討し、応募~最終審査までをサポートする“Innoventure Lab”と、最終審査を通過したのち、業務時間の何割かを使いながら事業案をブラッシュアップし、事業化を目指していく“Innoventure Studio”という2つの取り組みがあります。基本的にはInnoventure Studioに参画するタイミングで、SBイノベンチャー株式会社に出向し、元々いた部署と両方に所属しながら、徐々にコミットメントを高めていく流れになります。
―ソフトバンクイノベンチャーを使ってどのように事業開発を進めてきたのでしょうか。
(杉山)色々と事業アイデアを考えていたところ、デジタル化が全く進んでいない“屋外広告”という市場に気付き、現在の事業の原案ができました。ソフトバンクイノベンチャーの最終審査に通過した後は業務時間の一部を用いながら、事業者ヒアリングやプロトタイプ開発を進めていきました。
コロナ禍の影響もあって事業化判断に時間がかかってしまったのですが、徐々に売り上げの実績もでてきたことで、1年前からはフルコミットで事業開発に携われるようになり、事業の法人化についての検討も進めていました。そのなかで、自由度高く事業開発が行える仕組みとして出向起業という出口を選択肢に入れるようになり、今回の応募に至りました。
媒体の価格や位置情報をデータベース化することで、広告主が自ら検索することが可能に
―OOHMATCH(オーマッチ)のサービス概要と特徴についてお伺いできますか。
(杉山)看板やサイネージといった、屋外広告のマーケットプレイスです。特長は、16万媒体の価格や位置情報をデータベースとして保有していることで、広告主が自ら、金額で絞ったり位置情報で絞ったりしながら、媒体を検索することができます。そこに、人流データや属性のタグ付け(年代・性別等)を行っていくことで、より高度な設計や効果検証が行えるようにしていく予定です。
―屋外広告業界の課題は何だったのでしょうか。
(杉山)日本の屋外広告は、小さい看板から電柱まで、細かい媒体が大量に存在するロングテールの商品となっており、4,000社以上の小規模代理店が、各媒体を個別にアナログ・人力で管理していました。そのやりとりが非常に煩雑で、広告主も媒体社も両方が疲弊している状況でした。オーマッチのデータベースを活用することで、より効果的に媒体を選定することが可能となります。
(山口)屋外広告市場は非常にレガシーな業界なので、逆にビジネスチャンスの塊だと感じています。特に媒体側の課題感が強かったので、コロナ禍で広告出稿が減っていたタイミングで媒体営業を進めたところ、16万媒体が集まり、データベース化することができました。媒体拡充は引き続き継続しますが、ここからは、広告主に対してどうオーマッチに流入させるかが課題となってきます。
―顧客の反応はいかがでしょうか。
(杉山)2022年に入って、コロナ禍の影響が徐々に落ち着いてきたことから、問い合わせと成約が増加していきました。特に、屋外広告を出稿したことの無い中小企業やスタートアップからの問い合わせが多く、自分で検索できる利便性と、社内での説明のし易さなどを評価いただいています。結果として、媒体社にとっては新たな広告主を開拓するルートにもなっています。今後は、オウンドメディアにて屋外広告のナレッジ集を公開する等、広告主に対するマーケティングを進めていく方針です。
屋外広告が持つ位置情報が、WEBマーケティングと連動していく可能性
―今後はどういった事業展開を進めていくのでしょうか。
(杉山)まずは媒体拡充と広告主マーケティングを継続して進め、成約数を積み上げていきます。媒体の種類についてはまだまだ拡張の余地があり、例えば室内サイネージなど、より属性を特定できる高単価の媒体なども組み込めるようにしていきたいと思います。
また、中長期的な話ですが、屋外広告は広告を見たユーザーの位置情報を取ることによって、位置情報と連動したWEBマーケティングなども検討しています。今後、GDPRによりWEBプラットフォーマーもユーザー情報を取り難くなるため、相対的に屋外広告で取れるユーザー情報の価値が向上すると見込んでおります。いずれ出向元のWEB関連事業と連動・協業ができる可能性もあると考えています。
―出向起業後、元社との関係性は変わるのでしょうか。
(山口)特に変わりは無いですね。位置情報に強い人間が出向元には多いので、適宜アドバイスをもらったりしながら、プロダクト改善に活かしていきたいと思います。
―出向起業にあたって、出向元からはどういった期待をもたれているのでしょうか。
(杉山)2つあって、1つは中小企業向けの事業基盤を作ることと、もう1つはポストWEBマーケティングのソリューションを作ることです。
ソフトバンクイノベンチャーの方針としてかなり自由にやらせてもらっていますが、いずれそこに繋げて、出向元の事業にも貢献できるとよいなと思います。
―いざ、出資を受けて出向起業が始まるというタイミングですが、心境の変化はありますか。
(杉山)これまで以上に、全てが自分の責任になるということだと感じています。当事者意識をこれまで以上に強く持ち、より真剣に考えを詰めていこうと思っています。
(山口)ソフトバンクイノベンチャーでフルコミットで事業に携わるようになってからとやること自体は変わらないのですが、出向起業として期限や目標が明確に定まった分、やるべきこともより明確になったなと。ポジティブな意味でプレッシャーを感じています。
(鈴木)デザインしたプロダクトのフィードバックがすぐ得られる環境は、デザイナー冥利につきます。やるべきことを全てやるだけなのですが、立場が変わるので身が引き締まる思いです。
杉山 憲史氏
代表取締役CEO
自己紹介/略歴:
早稲田大学商学部を卒業後、2015年ソフトバンク株式会社に入社。
Y!mobile営業本部、グローバル事業本部に在籍し、フィンテックやスーパーアプリなどの新規事業開発を担当。
「屋外広告取引プラップフォーム『OOHMATCH』 」について
交通媒体や看板媒体、デジタルサイネージなどの屋外広告(OOH)をWEB上で売買ができるマーケットプレイス「オーマッチ」を運営しています。
OOHの課題として、WEB上に情報が集約されておらず、自社に適した広告枠を見つけることが難しいばかりか、複数の中間業者が取引に介在することで価格の相場観も不透明です。かつ、業界慣行がまだまだアナログ、取引はFAXや電話が主であるため、多くの工数が発生しています。
媒体オーナーと直接繋がるOOHマーケットプレイス「オーマッチ」はこれらの課題を解決するために誕生しました。また、今後はOOHにまつわるデータを収集し、定量的な観点からも自社に適した広告枠が分かるようなプラットフォームへと成長させていきたいと考えております。
会社概要
所在地 | 東京都中野区大和町1丁目32番3-403号 |
WEBサイト | https://oohmatch.com/ |