服部 昂氏(株式会社リアコネ)
直接声を聞くことで確信した課題感を事業アイデアに
―服部さんのキャリアと、本事業の着想を得た背景を教えてください。
2012年に某日用品メーカーに入社し、お風呂や食器用の洗剤を研究開発する部署に配属されました。
ずっと課題に感じていたのは、B2Cメーカーなのに、お客様に直接買ってもらえているという実感が少なかったことです。お客様は小売店で購入されますので、別途調査会社を通じて聞く以外には感想を直接伺える機会がなく、研究開発した機能や香り等の細かい変化が果たしてお客様に伝わっているのかどうか、ずっともやもやしていました。
もっとメーカーもお客様に近付かなければという課題感から、2017年に新規事業開発部門に異動し、デザイン思考を活用したお客様視点でのアイデア創出などを経験しました。そんななかサプライチェーン全体を俯瞰しようと業界関係者をヒアリングしていると、実は日用品が需要予測の困難さ、製品リニューアル等の影響で、大量の在庫を抱えてしまうことや返品廃棄されていることが分かり、本事業の着想に至りました。
―返品廃棄とはどういうことかお伺いできますか。
非耐久消費財全般に当てはまるのですが、小売店では商品棚のラインナップを半年に一度変更しており、その際、棚を獲得できない商品はメーカーに返品されています。また数年に一度、商品はリニューアルされています。中身が変わったり、パッケージだけ変わったり、その程度は様々ですが、その都度、新旧バージョンの商品入れ替えが発生します。
商習慣上、メーカー都合での商品入れ替えは小売店からの返品を受け付けており、リニューアルの度に一定数の返品が発生しています。返品された商品は、社内利用など使えるところで使用しつつ、残りはどうしても廃棄せざるを得ない状況です。
―日用品はどれくらい廃棄されているのでしょうか。
日用品だけでも卸値ベースで年間300億円分くらいが返品され、そのうちの大部分が廃棄されており、国内の類似品も合わせると年間1,300憶円分くらいになります。さらに洗剤の場合、水分が多く重いため、単価が安いにも関わらず返品・廃棄時の輸送費負担が大きいという特徴もあります。
メーカーとしてより良い商品にするための工夫・リニューアルは続けなければならないことは理解しつつも、この先もずっとこのままでいいのかと疑問を抱いていました。
―メーカーや小売りの工夫では廃棄は減らせないのでしょうか。
当然、メーカーとしても廃棄を減らす工夫は行なっており、例えば、需要予測精度を向上させ生産ロットをできるだけ小さく、短サイクル化して段階的に生産するなどの対応は進めています。一方で、お客様がいつでも商品を手に取れるように欠品を発生させないよう、どうしても多めに作りすぎてしまう傾向があります。小売店と連携してワゴンセールで安価に販売することも工夫の一つとなりえるかもしれませんが、ブランド棄損にも発展してしかねないため、中々一歩を踏み出せない実情があります。
お客様の協力を得ながら「商品ロス」を最小化していく
―このような廃棄問題に対し、リアコネではどのようなサービスを提供するのでしょうか。
商品ロスを最小化させる取り組みであることをフックに、リアコネのアプリや公式LINEに会員様を集めます。リアコネ会員限定で「リニューアルの近い商品等がお買い得になる」ことを告知し、会員様の購買意欲を駆り立てていくサービスを考えています。
消費者視点では、商品購入後レシート写真をアプリや公式LINEにアップすることで、キャッシュバックやポイントが得られます。いつものお店で日用品を買うだけですが、ちょっとおトクになって、環境に対してもいいことをした感覚を得られることができます。
小売店では、特別な販促を行うことなく通常どおりの営業販売をしていただくだけで、返品数の減少につながりますので、小売店側での返品関連に係る作業負荷の軽減が期待できます。
―フードロスの話などはよく聞きますが、日用品でもこのような話があるとは意外でした。
食品には賞味期限があり分かりやすいですが、日用品には賞味期限がないので、そもそも廃棄されているという現実が認知されていません。我々はこの問題を「商品ロス」と名付け、商品ロスをお客様の協力で無くしていくことを認知してもらいたいと思っています。
―このサービスでは、メーカー側にもメリットがあるんですよね。
返品が発生すると、小売店からメーカー倉庫への輸送、社内販売用か廃棄用かを判別する検品作業が発生します。さらに廃棄対象品については焼却工場への輸送費、焼却費がかかりますので、返品廃棄自体に多大な手間とコストがかかっています。このコスト削減分がリアコネの売り上げとなり、消費者へのインセンティブ付与の原資になります。
また、リアコネのサービスを使うとレシートの情報から旧商品を購入したのが、どの会員様なのかが特定できますので、その会員様向けにリアコネのアプリ、公式LINEを通じてそのまま新商品の紹介等の販促が可能となるなど、メーカーが直接的に消費者とつながるツールにもなり得ると思っています。
リアコネのサービスを通じて、ただ旧品の返品廃棄を削減するだけでなく、次の新商品の販促につながり、ブランドとして旧商品、新商品の切れ目ないマーケティングが可能になると考えています。
外の情報に触れて、感度を高めておくことが重要
―今後、この事業をどのように展開していかれるのでしょうか。
社内の新規事業開発の部署にてアイデアをいくつも考えていたんです。そのアイデアを実際の事業として成長させていくには、そのまま所属企業の新規事業として社内提案を順次通しつつやっていく方法、会社の外で「起業」する、出向起業してやっていく方法、どちらの選択肢がよりよい成長につながるかを考えました。その結果、スピード感、オーナーシップを持ちながら事業開発にチャレンジしたいと考え、後者の出向起業を選択しました。
また以前に、ベンチャーキャピタル(以下、VC)の方から “ストラクチャード・スピンイン(SSI)”と呼ばれる投資モデルについての話を伺い、すぐにでもやってみたいと関心を持っていましたので、2020年の5月からVCとの議論を重ねつつ、ピボットもしつつ事業検討を進め、2021年5月に出向起業をしました。
―起業する際には、辞めて起業することも検討されましたか。
辞めるという選択肢は現実的でありませんでした。自分自身、そのようなリスクが取れる人間ではないので、この出向起業の仕組みが無ければ起業できていなかったと思います。
―社長になってから2ヶ月が経ち、現在の心境はいかがですか。
「○○社の服部」ではなくなり信用度がゼロのところから新たな一歩を踏み出したのですが、意思決定をするのは自分自身しかいないこと、これまでの私が会社の看板や上司に甘えていたのだということを実感しました。
出向起業をしてからまだ2ヶ月ですが、所属企業から離れたことで圧倒的にリソースが足りないと感じています。そういった中、資金面で最大500万円の補助金を支援してもらえること、資金のみならず、すでに採択済みの他の出向起業者との横のつながりによる情報面のメリットがあること、また、経済産業省の事業に採択されるというお墨付きが得られることは、信用度がゼロのリアコネには非常に大きなメリットだと考えています。
―2年間の出向期間、その先に目指すもの何でしょうか。
今後もたくさんの意思決定の場を経験すると思いますが、自由さを感じる反面、当然プレッシャーも感じています。ただ、今後やりたいことが滅茶苦茶でてくると思いますので、ただただ時間だけが過ぎないよう、一つ一つを大切にしていきたいと思います。
お客様が買い物に来られた際に、店舗に商品在庫が少なからず残っていないといけませんので、商品の返品ゼロというのは非常に難しいことです。ですので、どうしても返品されてしまう商品、在庫過多な商品については一般の消費者からクローズドな環境で、業者や大学の部活動、学校、理容美容施設等に直接販売できないかと考えています。つまり一般の市場とは異なるクローズドな環境で需給のバランスをとることでブランド棄損を発生させずに作った商品を使って頂ける環境を創れるのではないかと思います。この事業ではこのように様々な展開可能性があり、非常にワクワクしています。
―大企業、特に研究開発をしている方へメッセージをいただけますか。
外の情報に触れて、感度を高くしておくことが重要だと思います。大企業の研究開発部門にいると、業者側が研究所に来る機会が多いため、研究所の外へ出る機会がなく閉鎖的になりがちです。私はたまたま新規事業開発部門へ異動し、社外に出る機会が増えたことでそのことに気付きましたが、研究所にいた当時は「外の情報に触れよう」とは考えもしていなかったと思います。
出向起業の仕組みもそうですが、知っていたら自分も挑戦したかったと思われる方は多くいらっしゃると思います。私は経済産業省の始動プログラムに6期生で参加したり、大学院で学びなおしたり、これらは非常に良い機会となりました。そういった機会があるなら、ぜひ、積極的に参加していただきたいと思います!
服部 昂氏
代表取締役
自己紹介/略歴:
2012年に出身企業である日用品メーカーに入社。
R&Dにて浴室用洗剤、食器用洗剤等の製品開発・研究に従事。その後新規事業開発部門にてデザイン思考を活用したアイデア創出経験を経て2021年に株式会社リアコネを創業。代表取締役に就任。
経産省主催「始動」6期生/中小企業診断士
「メーカーと生活者をつなぐ、商品ロス削減に向けた販売支援サービス」について
相次ぐリニューアル・商品追加により旧商品が小売りから返品されている現状から、ムダな作業+廃棄が発生しています。その規模は国内の類似業界を合わせ年間1,300億円と推計されており、この「ムダ」を解決し、メーカー、卸・小売、生活者、環境の全てがメリットを享受できるソリューションの構築を目指しています。
本事業では、プロトタイプを作成しUI /UX における改善ポイントの洗い出しを行い、考案しているサービスコンセプトで課題解決ができるのかの検証を行なってまいります。
会社概要
住所 | 東京都港区南青山1-1-1新青山ビル西館7階 |
問い合わせ先 | info@reaconne.com |
WEBサイト | https://www.reaconne.com/ |