松原 安理佐氏(株式会社リバース)

新規事業での成功事例がない状態からの挑戦
出向起業に至った経緯を教えていただけますか。

2015年に神姫バス入社後、約3年間は不動産事業の部に配属され、神姫バスがオーナーであるビルテナントのオープンイベントやテナント会合を実施したり、ビルテナントの支援・運営業務に従事していました。

元々、入社した時から企画をやりたい、新しいことに取り組みたいと思っており、周囲にもそのような話をしていたおかげか、その後、事業戦略部に異動しました。ただ、異動はしたものの、新規事業を活発にできるというものではなく、既存事業の課題解決がメインの業務で、その課題解決アイデアを目的とした社内コンペを運営したりしていました。事業戦略部の活動として、“新規事業創発”のための戦略を打ち出せないか、運営の見直しを図る中で、外部講師を呼んだり、若手社員への研修をしたりもしていましたが、なかなか社内で新規事業を企画したいと手を上げる人は出てこなかったんです。それは、神姫バスで、自ら提案した新規事業での成功した事例がない状態だからというのが大きかったのではないかと考えます。

その状態を打破するためにも、この事業戦略部という場で私自身が何か新しいことを挑戦してみてもいいのではという話になって、今回の事業アイデアを企画し始めたのが1年前になります。

手が挙がらないなら自分でやってみようとなったのですね。最初からお一人で始められたのですか。

最初は3名ぐらいのメンバーで進めていましたが、それぞれ異なる業務を持つメンバーでしたので、既存業務の比重の違いがありました。結果、私がメインとして活動するようになりなした。

神姫バスはLPとして投資ファンドを立ち上げたタイミングも重なっていましたので、事業戦略部という立場で投資に関する知識を得ることができたり、ベンチャー企業との接触機会を持つことができました。そういう知識を得たこと、外で事業を進めるスピード感を感じる経験が持てたことも大きいですし、会社としても私が手を挙げてまずは事例を作ることがいいと感じてくれたのではないでしょうか。

事例がない、経験や知識がないから分からない、ということですね。ベンチャーとの接触機会で何か感じたことや得たことはありますか。

若手社員からも一人一アイデアを出してもらって、面白いアイデアもたくさんあったんです。ただ、アイデアは出るけれど、事業化するとなると自分がやりますとはならない。もったいないなと感じましたね。

お会いしたベンチャーはシードアーリーからミドル期の方が中心でしたが、まず、驚いたのが同じ世代の方がやっていることでした。それぞれの方が、そういう“思い”を持って会社を作った話を聞けたことは大きかったです。ネットなどの情報から、起業自体は資本金1円でできるという知識はありましたが、想像以上に起業に対するハードルが私の中で下がった瞬間でした。極端にいうと、体力さえあればできる。もちろん、そこから継続していくことが難しいですけどね。

なるべくしてなった人が起業しているイメージだったんですが、地方でも頑張っている人を知ったことで、起業に対する距離感が近く感じました。

コロナ禍だからこそ、厳しい状況だからこそ取り組める事業がある
今のバス会社の現状を教えていただけますか。

本来はオリンピックを控えてインバウンドを主とするターゲット戦略、神姫バスは兵庫県姫路市に本社があり、私の当初の事業アイデアは姫路にインバウンド周知をするために、オンデマンドタクシーのような、空港から姫路まで直接送客し、ゲストハウス・民泊なども含めたローカルに根ざした観光事業の仕組みを検討していましたが、コロナもあり実施は難しくなりました。

バス事業は元々、通勤通学で利用いただくのが大きいですが、ここもコロナの影響が大きく、利用が激減しました。今年になってもテレワークが定着している企業もありますので8割ぐらいの状態だと思います。

既存事業だけではなく、バスに関わる人材を他の事業に活用することや、これまでとは違った輸送、送客など新しいことを考えていくことは社内でも課題意識としてあります。コロナ禍でバスは稼働しない。一方でコロナ禍だからこその“ワーケーション”という言葉が聞かれるようになりましたよね。 “移動”というキーワード、そこに着目して、バス会社だから持つ資産と“移動”を結びつけた事業ができないかと考えました。

バス会社としての課題意識も事業アイデアの元になっているんですね。今回、出向起業というスキームを選択されたのは理由があったのでしょうか。

出向起業のスキームを知る前から、このアイデアを進めるためには法人化すること自体は一つの選択肢でした。法人化は、事業をスピード感持って進めるためというのもありますし、私自身が事業を進める責任感を持ちたいと思ったからです。アイデアに対して実現可能性があるのかどうか、VCと関わりを持ち、アドバイスもいただける立場だったのも法人化しようという後押しになりました。

出向起業制度はいろんな方と新規事業の推進方法について相談していた中で、色々な補助金や制度があることを伺い、知りました。法人化するにあたっても活用できる補助金だということ、出向なので、会社を100%辞める必要もない。今回の事業アイデアが、神姫バスのリソースを使って進めることを前提としていましたので、私がやろうとしていることに合う制度だ、と感じました。

バス会社のリソースを活用した新規事業の検討
神姫バスのリソースを活用した事業というところをもう少しお伺いできますか。

日本全体で人口減が進む中、移動に着目すると、移動の多様化により選択肢が増え、大型バスのニーズだけでなく、オンデマンドタクシーやマイクロバスのニーズも上がるのではないかと考えています。

特に旅行などの観光バスにおいてはコロナ禍で、団体旅行よりも小規模単位での移動とニーズの変化が起きているのではないかと考えています。大型車両は所属元企業では、一定の年度が経過した段階で譲渡するか廃車するか判断されます。毎年何十台という大型車両を廃車する、ここにもコストが掛かっています。安全性の面から”お客様を乗せた走行”はできない、廃車するにもお金がかかるのであれば、この車両を送客のためではなく、別の用途に使えないかと考えました。

大型車両だからこそ普通の車両と違い、車内を一つの空間として使用することができます。また、送客はできませんが、車両ですので、必要に応じて好きな場所に“移動”できます。大型のスペースが必要な場所に必要な期間だけやってきて設置できる、バスならではの活用方法があるのでは、と考えました。

どう利用するシチュエーションをイメージされていますか。

個人的に実施したいのは“サウナ“ですが、例えばイベント開催時の喫煙所や厨房・キッチンスペースとしての活用、夏の海の家の期間だけシャワールームや更衣室などへの活用もイメージしています。常設できない事情や、需要に合わせて柔軟にスペースを増減できるのが、移設可能な空間であるバスの一番の強みです。

また、今回、第一弾は走れるバスを改造して必要な場所に移動して利用していきますが、将来的には走行できないバスも有効活用していきたいと考えています。宿泊施設などですでにバスを設置して更衣室として常設利用しているケースがありますので、常設利用のニーズもプロジェクトを進めながら探していきたいと思っています。

まずは利用したい方のニーズに合う改造を行った車両を提供していくイメージでしょうか。

現時点ではB to B、いただいたニーズに対応していくことが主となります。ヒアリングを行いながら大小様々あるニーズにアプローチし、バス転用の価値を最大化するようなユースケースを探索していくつもりです。また、改造車両の販売提供だけでなく、自社保有ではランニングコスト的に難しい企業向けのリース提供のニーズもあると思いますので、ユースケースと併せてサービス形態含めて色々な可能性を探っていきたいと思っています。

主力となるようなビジネスモデルを構築して他のバス会社やタクシー会社などへビジネスモデルを提供するフランチャイズ展開も検討したいですね。

リバース
バスの利用可能性
―バスの改造・運転手を含めてコーディネートできることが強みになるんですね。

バスの改造では座席や設備、備品類を外すにあたって、ガソリンやエンジン、発電機の扱いに気をつける必要がありますので、そのあたりは設計士、整備士と相談しながら進めています。

ここは所属会社の協力を大いに生かせるところだと思います。実際、今回のサウナバスを実施するにあたって、私も最初は大丈夫なのかなと不安に思ったのですが、ストーブとの距離など安全面で考慮できていれば大きな問題はありませんでした。原則改造したバスでは人を乗せない、送客はしませんのでルールも通常のバスとは違いますが、法や許認可などにはもちろん気をつけています。市や県で異なるルールもありますので、過去に同様の事例がある場合などは、コンタクトを取って話を聞きに行ったりしています。

社内だけでなく、地方で何かに挑戦したいと思っている方にとってのきっかけに
今後の目標や計画、松原さんが考えているゴールのイメージはあるのでしょうか。

この事業では、一つの改造したバスと付随したビジネスモデルを完成させて、まずは事例を作りたいと思っています。兵庫県内だけでなく、全国展開を見据えて、他のバス会社と一緒に実施していく、パートナーを増やしていきたいと考えています。他のバス会社ともヒアリングを進めているところで、実際のところ、今の状況下では、新規事業に着手できないというご意見もいただいています。

ただ、廃棄バスの活用には興味を持っていただているところもあります。兵庫県に限らず、再開発前の土地の活用や、農地法の関係などから建築が難しい、転用しづらい土地、用途がなくそのままになっている有休地など、土地の活用についても一定のニーズがあるのではないかと思っています。バス車両を活用することを特別なものではなく、オンデマンドに空間を利用する手段として一つの選択肢になるようにしたいですね。

新規事業検討を始めて1年とのことですが、ご自身の中での変化はありますか。

積極性がついたことでしょうか。法人化したことで、まずは売り上げを立てなければならないので、外部の人に話を聞きにいく場が増えました。社内ですと、どうしてもリスクの話をされることが多いんですが、外部の人からは違った視点で意見をもらえることが多いんです。積極的に知りたい知識、聞きたい情報があるときには積極的にコミュニケーションを取ることを意識するようになったことで、自分でアクセルをかけられるようになったのではないでしょうか。

例として、サウナバスを作るならばと、“サウナといえば”と思いつく人にはコンタクトをとにかく取りました。SNS経由でとにかくダイレクトメールを送って、私のアイデアを聞いてもらい、意見をいただくことは本当に勉強になりました。新規事業を通じて、今までつながりのなかった食品メーカーの方など、様々な業界の方とお話をする機会が得られたのは、単純に面白く、新しいことができている実感がありますね。

起業が特別だと思っている人に対して、何かメッセージをいただけますか。

私は常に人生は1回きりだと思って生きていますので、やりたいアイデアがあるなら、チャレンジした方がいいと思います。色々なことは一旦忘れて、今しかできないことをまずはやってみるのはいかがでしょうか。

特に地方の方、私のような地方のバス会社から参加、起業していることを知って、応募していいんだと、自分でも挑戦できるんだと思ってもらいたい、何かきっかけになればうれしいです。

松原 安理佐氏

まつばら ありさ

代表取締役社長

自己紹介/略歴:

2015年に神姫バス株式会社入社。不動産事業に従事後、事業戦略部にて新規事業の制度運営・管理、社内課題解決コンペの企画・運営、スタートアップとの協業検討などオープンイノベーション関連業務に従事。
2021年に株式会社リバース創業。

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「バスで創る新たな移動空間サービスの提案」について

改造バスの企画・提案、改造を行い車両をリース、販売業務とバスの維持に関するメンテナンスやドライバーの派遣業務の提供を通じて、移動手段としての役目を終えたバスを「スペース」として活用、どんな場所にでも運べる「目的地」になる「バス事業」の展開を検討しています。

本事業では「サウナ」をバスの目的として活用するために必要な車両製作のよる法規制との整合およびユーザー獲得に向けたマーケティングの効果検証をしていきます。

会社概要

本社所在地大阪府
問い合わせ先re.birth.matsubara@gmail.com