畑中 利沙子氏(株式会社SANTAM)

Q.出向起業にて行う事業について教えてください。

生成AI技術を活用して育児記録をマンガに変換する「Nicomic」事業を立ち上げたのは、私が第一子を産んだ2020年のことでした。当時、 某日用品メーカーで研究員として働いていた私は、産休を機に転勤族のパートナーとともに新しい土地で初めての育児に挑むことになったのですが、親族も友人もいない孤独な環境での育児は、想像以上に過酷なものでした。

子育ての知識はあっても、実際の育児の現実は別物で…..「自分の意思で行動できない」ことの辛さ、「誰とも喋らないで終わる一日」の孤独感。 眠る、食べる、掃除する、どの動作も子どもの泣き声で中断され、自分の時間は次第に細切れになっていきました。日々の出来事や感情さえも言葉にできなくなり、「私」がどこにいるのか分からなくなっていました。

そんな中、産後うつで亡くなったお母さんのニュースを見て思ったんです。「私も何か一つ間違えば、あのようになっていたかもしれない」と。 子どもは順調に成長しているのに、育児に追われる日々の中でその喜びを感じる余裕すらありませんでしたが、余裕がないからこそ、「私と子ども」の時間を記録して振り返ることが必要なのではと。育児に向き合う姿勢を変える、育児中の気持ちをもっと豊かにするツールが必要だと感じました。

そして生まれたのが「Nicomic」です。 マンガなら、忙しいママたちでもスキマ時間に気軽に読めて気分転換に、育児をしている自分を客観的に見つめ直し、なんだかちょっぴり笑顔になれるのではないかと考えました。Nicomicを通じてパートナーや他のママたちと共有し、共感し合うことで、孤独感を和らげてほしい。子育てに全力で向き合うママ・パパに笑ってもらいたいという思いからこの事業はスタートしました。

Q.アイデアを事業化、出向起業へと行動に移された理由を教えてください。

0〜1歳期間の育児の課題を解決するための具体的なツールが不足していると感じていましたので、これを解決するためのアイデアを模索していました。特に、育児中の母親が子供との思い出を残すきっかけを入り口にすることで、誰もが気軽に利用できるツールを開発したいと考え、生成AI技術を活用してスマホ一つで簡単に自分だけの育児マンガを作成できるサービス「Nicomic」事業を立ち上げました。

ただ、生成AI技術の活用は所属企業内での事業化を目指した場合、実現までに時間がかかると判断し、社外出向を選択しました。社外出向にあたっては、個人のリスクを抑えつつ新たな挑戦ができる点、安定した収入を維持しながら育児と仕事の両立が可能となる点に魅力を感じて、出向起業制度を活用することにしました。

Q.出向起業制度の活用にあたって、社内調整はどのように進められたのでしょうか。

全社員が応募できる年1回の新規事業コンテストに応募し、一次審査・二次審査・最終審査を通過し、採択されました。事業アイデアの提案から採択までのプロセスは、研究職としての現業務との両立が課題でした。研究報告がたびたび行われるためその準備と審査会の開催が重なる時があり、その時は、同じ研究チームメンバーや家族の協力も得ながら、進めていきました。

Q.出向起業への応募に対して、所属企業の周りの社員の方、ご家族や身近な方の反応はいかがでしたか。

所属企業の社員からは、育児の課題解決に向けた新たな挑戦に対して前向きな反応を頂きました。特に、育児中の同僚からは大きな共感と応援の声があり、社内の理解と支援をいただきました。特に、所属研究所の所長と上司の理解があり、サポートいただきました。最終審査会では、審査会場に直接来てくださり、応援していただきました。所属していた研究所の当時の所長・上司・チームメンバーに支えられたおかげで、自分がやりたいと提案した事業を出向起業という形で実現できていると感じています。

家族や身近な方々からは、育児と仕事を両立しながら新たな挑戦をすることを理解し、応援してくれています。特に、夫は、育児の経験を活かして事業を立ち上げることに対して、とても期待をしてくれているようです。期待するだけでなくサポートもしてくれるおかげで、今、出向起業ができていると感謝しています。

Q.まず実現したいこと、目標やビジョンがあれば教えてください。

これからNicomic事業の第一弾として、育児支援のプラットフォームを構築し、育児の課題解決に向けた総合的なサポートを目指します。まずはサービスのユーザー獲得とフィードバックを基に改良を重ね、次に法人向けサービスの展開や新たな育児支援ツールの開発を計画しています。

Q.出向起業にあたっての意気込みをお聞かせください。

育児の課題解決に向けて、全力で取り組む意気込みです。2人の子供の育児経験を活かし、多くの家庭にとって価値あるサービスを提供し続けたいと考えています。

また、生成AI技術を活用することで、効率的かつ魅力的なコンテンツを提供し、育児中のママ・パパを支援することに尽力していきます。

「育児の課題解決に向けた解決策の実証実験」について

日本における育児の課題は、社会全体の重要な課題として取り組まれてきましたが、現実には解決が進まず、多くの家庭が未だに育児の負担を強く感じています。

当社は、生成AIを活用して育児の課題を解決する方法を開発。具体的には、生成AI技術を活用して育児記録をマンガに変換する「Nicomic」、産科・婦人科の待ち時間を有効活用する「Waiting Answer」、そして育児中の女性社員の家庭と仕事の両立を支援するツールの3つの事業を展開。

育児支援を総合的にサポートするプラットフォームの開発を見据え、さらなるサービスの充実と発展を目指します。

畑中 利沙子氏

はたなか りさこ

代表取締役

自己紹介/略歴:

2016年4月、某日用品メーカーに研究開発職として入社。
香料科学の研修を経て、香り・味を開発する部所に配属され、柔剤や洗剤の香料開発・技術開発、感性研究を担当。
2020年から産休育休を取得し、2022年に復職。
2023年9月の新規事業提案コンテストで採択され、2024年1月より出向起業し、代表取締役に就任。

Profile Picture

会社概要

所在地東京都港区南青山1-1-1新青山ビル西館7階
WEBサイトhttps://lp.nicomics.com
問合せinfo@santam.co.jp