名和 彩音氏(株式会社zooba)
自ら希望して異動した情報システム部門で感じたSaaS管理問題
―まずは事業の概要をお伺いできますか。
(名和)まず背景として、企業が利用するITツールが、従来のオンプレミスからSaaSへと代替されていっている現状があります。それに応じて、一企業あたりに利用するSaaSの数も増加しています。この流れは、コロナ禍によって顕在化したDXの取り組みも相まって今後さらに拡大していくと考えられます。
自社での管理運用が要らないというのがSaaSの本来のメリットなのですが、SaaSの利用数が増えていくと、その契約管理やアカウント管理などの、雑多な業務に情報システム部門が忙殺されてしまう事態を招きかねません。そこでzooba は、複数のSaaSのアカウント管理を一元的に管理可能とするクラウドサービスとして、情報システム部門の管理工数を削減していくことを目指しています。
―どういった経緯で、この事業の着想に至ったのでしょうか。
(名和)私の経歴から話しますと、前職の日本マイクロソフト、および出向元の株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)では、インフラエンジニアとして社内のオンプレミスのシステムを管理していました。そんな中、どんどん新しいSaaSが生まれていき、置き換わっていく時代の流れを感じ、インフラエンジニアとしてのキャリアを考え直していました。そこで、社内の情報システム部門、SaaS運用担当に異動願いを出したんです。
いざ異動してSaaS運用の仕事についてみると、情報システム部門がかなり大変な思いをしていることに気付きました。一例ですが、これまでは情報システム部門がITツールを選定して各事業部に展開するというフローだったのですが、毎月のように新しいSaaSがリリースされるこの時代、事業部門から使いたいという依頼を受けて、管理を始めるといったことが多くなりました。情報システム部門の仕事のあり方がどんどん変わっているなか、契約管理・アカウント管理という業務をなんとかしなければと思うようになりました。
新規事業開発チームからのヒアリングをきっかけに、自分でつくりたいと思い、起業支援プログラムに手を挙げる
―課題を認識されてから、起業に至るまではどういう流れだったのでしょうか。
(名和)実は、SaaS周りでの新規事業を考えているデライト・ベンチャーズ(https://delight-ventures.com/)のチームからヒアリングを受けたのがきっかけでした。私や同僚もSaaS管理に日々追われていた状況だったので、こんなサービスあったら欲しい!自分で作りたい!と思って、デライト・ベンチャーズの起業支援プログラム手を挙げました。
最初はデライト・ベンチャーズに部分出向して、30%程度の稼働を使いながら、ニーズの有無を検証していきました。社外の情報システム部門の方々にアンケートやヒアリングを進めていくなかで、数百ものSaaSを管理しているような状況が他の会社にもあることが分かり、事業化できそうということで、8月に会社を創業。この10月から100%フルコミットに移行してプロダクト開発を進めています。
―情報システム部門の経験が活きたサービスですね。
(名和)そうですね。サービス開発にあたっては、私自身が困っていた時に「何が欲しかったのか」を考えることを大事にしています。
一例ですが、SaaSライセンスの棚卸のユーザーヒアリングをする場合、日常的に利用している方ではなく、殆ど利用していない方にヒアリングする方が重要なんですが、それが難しいんです。zoobaにはその機能も搭載していますが、実務で欲しかった機能なので情報システム部門での知見を活かせている点だと思います。
―情報システム部門から経営者への転身ということで、どういう違いを感じますでしょうか。
(名和)私はコーポレート部門でのキャリアが長く、元々、起業を考えていたわけではありませんので、今の経験ができていることをありがたいと思っています。経営者として、意思決定を自分でしなければならない。かつ、選択が正しかったのか。得意分野から離れた今、自分を信じて意思決定を行っていくことは、日々チャレンジですね。
一抹の不安はあるものの、コーポレート部門のエンジニアとしてのチャレンジの延長線にzooba事業があり、出向起業があったということだと認識しています。
デライト・ベンチャーズによる、DeNAエコシステムを活用した起業支援
―プロジェクトマネージャーとして参画する渡邊さん、デライト・ベンチャーズとして支援する辻口さんのお二人からみた、名和さんの挑戦はいかがでしょうか。
(渡邊)zoobaの利用ユーザーは実務担当者なので、実務担当者が使いやすかどうかが重要です。その点、名和さんの今までのキャリアが活きてくると思います。とはいえ、サービス完成=事業の成功ではありませんので、経営者としての目線はこれから養っていく必要があると思います。
私は元々、DeNAが上場前の2004年頃から営業統括・総合企画部長として従事していました。その後退職して創業した事業をこのたび売却し、今年の9月からzoobaに参画しています。そういった経験も踏まえて、名和さんをサポートしていきたいと思っています。
(辻口)名和さんという経営者の経験や課題感が、やろうとしている事業と非常にマッチしていると思います。その点で進め方の心配を感じさせないので、あとは事業としてどう大きくしていけるかですね。
―デライト・ベンチャーズとしての支援目的はどこにあるのでしょうか。
(辻口)デライト・ベンチャーズは”起業のハードルをとことん下げる”ことが創立からの目標です。その支援の一つとして行っているのが、今回の出向を絡めた起業支援です。
日本での起業のハードルの大きい点として、ニーズがあるかどうかがわからないアーリーの段階で、セーフティネット無しで「半ば人生を賭ける」形で現職を退職し起業をせざるを得ない事が挙げられます。デライト・ベンチャーズは、出向元での雇用が確保された形で「出向起業」という形態を取ることで、起業家が安心してトライできる環境を提供しています。もちろん、「ダメだったら戻ればいい」というコミットが欠如した形での起業ではなく、そこは人物評価をしっかり実施します。その上で、失敗しても一定許容する、トライすることに価値があると考えてこの仕組みでの起業支援を推進しています。
(名和)私も、起業したいという強い思いが元々あったわけではなかったので、副業として情報システム部門向けにコンサルティングをするということも選択肢としてはあったと思います。ただ、同じ時間を企業の個別事情の解決ではなく、もっと大きく共通課題を解決していくことに、チャレンジしたいと思い、この制度を使わせていただきました。
情報システム部をもっとクリエイティブに。コーポレート部門の経験を活かした課題解決・スピンアウトを目指す
―サービスローンチの予定や、今後の展開についてお伺いできますか。
(名和)現在は、社内検証用にα版を試運用中で、そのなかで色々と必要機能につきブラッシュアップしているところです。今年度中にβ版をリリースし、まずはSaaS管理を使いやすく安全にするソリューションを展開していきます。そこで実績が出せれば、外部資金調達によるスピンアウトというステージがみえてきます。
そのうえでzoobaが実現したいのは、情報システム部門をクリエイティブにすること。今回立ち上げるサービスのみならず、情報システム部門のあらゆる課題を”ズバッと”解決する会社として、zoobaを大きくしていきたいと思います。
―コーポレート部門に従事されている方にメッセージをいただけますか。
(名和)繰り返しになりますが、私自身コーポレート部門でのキャリアが長く、強い起業の意思を持っているわけではありませんでしたが、コーポレートエンジニアとして挑戦を続ける延長線で“出向起業”という制度に出会いました。
あったらいいなというサービス、現場でしかわからないこともありますので、コーポレート部門の方でもアイデアがある方がいらっしゃれば、躊躇せずに出向起業制度を利用して挑戦してみて欲しいと思います。
名和 彩音氏
代表取締役
自己紹介/略歴:
マイクロソフトのサポートエンジニアとして認証基盤の知見を深めた後、株式会社ディー・エヌ・エーにインフラエンジニアとして入社。
SaaS運用管理に携わる中、人手がかかる業務の効率化を図り、生産的な業務に注力できる仕組みとして、ライセンス・アカウント管理システムを構想。
社内起業支援プログラムにより、2021年8月に株式会社zoobaを設立。
「激増するSaaSに対応する情報システム部門支援サービス」について
従来のオンプレミスに代わり、企業が利用するITツールとしてSaaSサービスが年々増加しています。自社資産として自身で保守管理行う必要がなく、自社IT人材の有効活用が行えるなどのメリットや、コロナ禍によって顕在化したDXの取組みも相まって更に拡大していくと予測されています。
一方で、利用条件に則った契約やアクティブアカウントの把握等、適切な管理を行うためのコストが増えるなどの課題が、利用するSaaSの増加とともに顕在化しています。
本事業では、“SaaS管理の必要性”という新たな課題・マーケットに対して、複数のSaaSのアカウント管理を一元的に管理可能とするBtoBクラウドサービスを提供していきます。
会社概要
住所 | 東京都渋谷区円山町28-1 渋谷道玄坂スカイビル11F |
問い合わせ先 | contact@zooba.ai |
WEBサイト | https://zooba.ai/ |