Vol.7 事業化支援機関としての振り返り

こんにちは。みらい創造機構の高橋です。

本連載の最終回となる第七回目では、今年度の事業化支援機関としての取り組みを振り返り、その中で感じた改善点と、その解決策としてのVC出向の活用について議論させて頂ければと思います。

INDEX

  1. 出向起業直後のスタートアップ経営者への適応期間
  2. 出向起業準備期間としての”VC出向”の活用
  3. 最後に

1.出向起業直後のスタートアップ経営者への適応期間

令和4年度では、新たに出向起業として10件の企業が採択されました。また、弊社みらい創造機構も内5社の企業の経営者の皆様と議論をする機会を頂戴しました。やはり、皆様個人的な興味・関心や、出向元企業での業務に基づく課題感から起業を決断しており、スタートアップとして重要な顧客課題について深く理解しており、また既に最初のトラクションが見えているビジネスも少なくありませんでした。

一方、自身で意思決定をする経営者としての振る舞いや、赤字を許容するスタートアップ型のビジネスモデル及び資金調達に必要な活動への理解については、(当然ですが)弊社のようなVCと認識をすり合わせる必要がありました。但し、経営者として活動し定期的に社外のVCと議論を実施することで、本支援事業の短い期間であっても、スタートアップの経営者然とした振る舞いになり、またVCと資金調達の話をしっかりと進められるようになりました。やはり、経営者として活動することで、マインドセット・スキルセット、共に環境へ急速に適応していくものだと、改めて実感した次第です。

とは言え、本来スタートアップは激しい競争環境で事業を行う必要もあり、スタートアップビジネスに適応している間に事業がリカバー不能な状態になる可能性も少なくないと考えております。この適応期間を極力短くすることは難しいのでしょうか。

2.出向起業準備期間としての”VC出向”の活用

皆様は客員起業家(EIR:Entrepreneur in Residence)という単語をご存じでしょうか。

「EIRとは、イノベーション創出に向けて課題を有する企業が、起業準備を行う者や、新規事業開発・スタートアップとの協業等に関する知見を有する者を、雇用・業務委託等を行い、自社のイノベーション創出に向けた課題を解決する取組」として定義されています。起業家にとっては、起業準備期間のセーフティネットや、起業経験者の新たなキャリアとして機能し、採用する企業にとっては、社内には無い経験・ノウハウを活用し、新規事業創出や社内改革の推進を期待することができます。

弊社は経済産業省が行う実証事業「客員起業家(EIR)活用に係る実証事業」に採択され、大学や国研等の研究者と一緒に起業する人材をVCとして採用し、互いに信頼関係が構築できた場合に研究者と一緒に起業してもらう新しい人事制度、「シーズ等活用型」の制度設計を行なっております。2023年2月より総合商社から弊社へEIRとして1名参画しており、共同創業者となる研究者を探しつつ、起業前の研究者の事業立ち上げ支援に取り組んでいます。

このEIRという人事・採用制度は出向起業のスキームと親和性の高い形で拡張することができるのではないか、と考えております。前職では自身の業界におけるスペシャリストであっても、やはりマインドセット・スキルセットにギャップがありますので、そのギャップを埋める期間として上手く活用していただく。例えば、出向起業に取り組む前、1年程度の期間、弊社のようなVCに出向しスタートアップの実際のオペレーションやVCの商習慣について学び、前段の適応期間を事前に経験することにより、スムーズに起業活動に移行することができるのではないでしょうか。

現在、出向起業を検討している企業ともVC出向の活用について議論を始めておりますので、ご興味がありましたら、お気軽にご連絡頂ければと思います。

. 最後に

本稿では、今年度の出向起業等創出支援事業を振り返り、新しい出向起業の可能性として、VC出向の活用について議論させて頂きました。

出向起業は、まだ完成した制度ではなく、実際に取り組む皆様と議論を重ねつつ、日本に新しい起業の仕組みを構築できればと考えておりますので、どんな内容でもJISSUI及びみらい創造機構までお気軽にお声かけください。

解説者紹介

高橋 遼平 氏(株式会社みらい創造機構:執行役員/パートナー)

京都大学経済学部卒業後、三菱商事株式会社入社。建設業界向けクラウドサービスの事業開発に従事し、同事業のカーブアウトに貢献。 同社退職後、医療系大学発ベンチャーを起業し、大手事業会社へのM&Aを実現。 また、戦略コンサルティングファームのアーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社にて、新規事業戦略策定等に従事。みらい創造機構では、キャピタリストと投資先の経営支援に取り組むグロースチームを兼務。

東京工業大学 環境社会理工学院 イノベーション科学系卒業。博士(工学)