榑林 哲也氏(株式会社Nano Chemix)

Q.これまでのキャリアについて教えてください。

2015年に積水化学工業株式会社に入社後、ペロブスカイト太陽電池という次世代太陽電池の開発チームに配属されました。テーマの黎明期の配属だったため、以降の6年間で基礎研究から量産開発まで幅広く携わることができ、私の社会人研究者としてのスキルはここで育てていただいたと思っています。

ペロブスカイト太陽電池が0→1から1→10のステップに移行した2021年ごろ、「自分で0から新しい事業を立ち上げたい」と考えるようになり、当時の上司にお願いをしてR&D企画センターに転属させてもらいました。企画センターでは積水化学の10~20年後の柱を作るべく、世界中の大学やスタートアップの有望技術を探索する業務に従事していました。業務を通じて様々な先鋭技術と先駆的な技術者やCEOと話をする中で、新規事業の性質によってはスタートアップという選択肢も有効であると考えるようになりました。そのころちょうど、自身で新規素材のビジネスを着想していたタイミングと重なったこともあり、一念発起してNano Chemixを創業しました。

Q.アイデアを事業化、出向起業へと行動に移された理由を教えてください。

実は2021年から会社とは別に博士後期課程として大学で研究をしており、本事業のアイデアの芽はそこで得ました。

大学で研究していた「光学偏向素子」という3Dディスプレイを作るための基礎技術では、研究の一部でナノ粒子材料を用いる機構を使います。この光学偏向素子の為に合成した分散性の高いナノ粒子を見ていた時に「分散性が高く透明なナノ粒子が出来れば、それだけでビジネスができるのではないか?」と考えました。

この時の着想から簡単な市場調査をしてみたところ、光学分野において上記ナノ粒子材料が活躍できる余地があることを見出しました。化学メーカーで働いた経験を総動員して光学材料の市場相場、製造コストや利益構造を試算した結果、「これはイケる」と思い、起業してラボを借りてしまいました。

その後しばらくは研究開発がうまくいかず、内心”起業は早計だったか?”と焦ったこともありましたが、現在は何とか成果がまとまってきており、ホッとしています….。

Q.出向起業制度の活用にあたって、社内調整はどのように進められたのでしょうか。

起業後は兼業状態で事業を進めており、どこかのタイミングで辞職→独立と考えていたところ、出向起業制度を紹介されました。

スタートアップ側としては金銭的な補助はもちろんですが出向元や経産省に認められたという”信用”も魅力的に感じました。また、新規事業の内容的に将来的な積水化学とのシナジーも十分あり得ると思い、当時の上長に本制度を利用させてもらえないかと相談した結果、所属部署である企画センターのセンター長から強力なバックアップをいただき、今回の出向起業を実現することができました。

積水化学では初めての出向起業だったため、制度の仕組みや積水化学側のメリットをご理解いただくまでには苦労もありましたが、サポートいただいた皆様に心よりお礼申し上げたいです。

Q.出向起業への応募に対して、所属企業の周りの社員の方、家族や身近な方の反応はいかがでしたか。

応募していることを積極的にオープンにしていませんでしたが、直属の上司は快く応援してくれました。また出向後は企画センターというだけあって、新しい取り組みはポジティブに捉えていただけているようです。

妻は大手製造業や人材系スタートアップなど私よりも多様なキャリアを歩んできた人で、今回の起業についても寛容でとても助かりました。応募準備を進めている間に、生後9か月となった息子は仁王立ちができるようになりました。

Q.まず実現したいこと、目標やビジョンがあれば教えてください。

ありがたいことに当社製品に興味を持ってくださっている企業様がいますので、出向起業補助金を頂いているこの一年でまずはPoC、PMFを完了させたいです。

来年度中にパイロットプラント導入に向けた調達をすることを目標としています。

Q.出向起業にあたっての意気込みをお聞かせください。

日本の素材産業は国際的にも高く評価されている基幹産業ですが、その割には素材系スタートアップの割合は低いと思っています。大企業の素材ビジネスとともに、スタートアップならではの機動力の高い経営で日本の産業発展に貢献していきたいです。

「光学樹脂の高屈折率化に向けたナノ粒子材料の実証事業」について

レンズ材料には「屈折率」という重要な物性値があり、屈折率が大きいほど薄く、軽く、高性能なレンズを作ることが出来ます。屈折率を向上する手法には高屈折率な材料を混合する「コンポジット化」がありますが、一般的にコンポジット材料は不透明であることが常識でして薄膜コーティングなど限られた用途にしか応用できませんでした。

Nano Chemixでは独自の製造技術により極めて分散性の高いナノ粒子材料の合成に成功、透明性を損なわずに材料の屈折率を底上げが可能に。

ナノ粒子粉末または有機材料とのコンポジット材料を製造しレンズ加工メーカーへ販売、最終製品としてはスマートフォンや各種センサー、自動車、VR/AR/MRゴーグルなどを想定しています。

榑林 哲也氏

くればやし てつや

代表取締役社長 

自己紹介/略歴:

2015年に積水化学工業株式会社に入社、ペロブスカイト太陽電池の研究開発に携わる。
2021年から企画部門に転属し、海外有望技術の探索業務を行う。
並行して博士後期課程として大学に入学し光学素子についての研究を行う中で
新規なナノ粒子材料を発想するに至り、これを事業化・産業応用するべく
2023年8月にNano Chemixを創業。

Profile Picture

会社概要

所在地茨城県つくば市千現2丁目1-6 創業プラザ214
WEBサイト準備中
問合せinfo@nanochemix.co.jp