森 庸太朗氏(株式会社ストリーモ)

倒れないバイクを開発中に得た「人研究」の成果を、マイクロモビリティへ適用
まずは事業概要についてお伺いできますか。

(森)端的に言うと、電動マイクロモビリティの開発・販売です。脱炭素化へのシフトを背景として、マイクロモビリティの市場は世界的に拡大中です。日本でも電動キックボードの規制緩和の動きが見えてきたところですが、安全面に関しては議論があり、普及の課題のひとつには操縦の不安があると考えています。

我々が開発するStriemo(ストリーモ)はこの課題を解決するため、「ユーザーの安心感」を追求した製品です。世界初となる「バランスアシストシステム」を採用することで、特に低速時の走行安定性を高め、停止時の自立や、荷物の運搬も可能としています。この特徴を活かして、今までのマイクロモビリティの操縦に不安を感じている人向けのB2Cや、工場向けのB2Bなどで用途開発を進めています。

どういったキャリアの中で、この事業を思い至ったのでしょうか。

(森)元々、新卒時代から「モビリティで世界を変えたい」という思いがあり、それが実現できる会社を探してHONDAに入社したのが2004年です。開発関連のキャリアが長く、メカトロ技術の開発や、マウンテンバイクの開発を担当した後、モトクロスやダカールラリーなどの、レース車両の設計なども経験させてもらいました。

そんな中、2014年後半から「倒れないバイク」として報道されたライディングアシストの研究を担当することになりました。それはそれで成果を出し、展示会等で皆さんに驚いてもらったのですが、それが世の中に対する「価値」に繋がっているのかな?と少し疑問を持ち始めたんです。ライディングアシストの研究では、ライダーのバランス取りの気遣いや操縦の不安を低減させるためにはどうすべきかという観点で「人研究」をしてきたのですが、持ち始めた疑問について考えるうちに、この価値は数百キロある趣味性の高いバイクではなく、日々の暮らしで使われるモビリティに実装した方が、もっと多くの困っている人達に、もっと大きな価値を提供できるんじゃないかなって思ったんです。

なぜマイクロモビリティに可能性を感じたのでしょうか

(森)元々、大学ではサイクリング部に所属しており、日本や世界を自転車で旅をしたりしていたのですが、自転車のようなスピードで移動するモビリティの価値を常々感じていました。すぐに立ち止まって景色を楽しんだり、コミュニケーションがとりやすいですし、移動することでの楽しさも感じることができる。このマイクロモビリティの領域で挑戦したいという思いがずっとありました。

また、新しい事業開発を行っていた時期に、イスラエル・ドイツ・アメリカ・インドなどのスタートアップが活発な地域を巡る機会がありました。ちょうど、シェアリングキックボードシェアが世の中に出始めたタイミングで、気軽に利用している人達をみて、マイクロモビリティが人々の足になり、新しい移動手段のひとつとして伸びていく兆しを感じました。

バイクのライディングアシスト技術は、マイクロモビリティでも適用可能なのですか

(森)実は、物理的に「自立した状態を保つ」ようにすることはできても、そこから乗り物として成立させるためには、人がモビリティの動きをどう感じて、どう反応するか、それにどう対応するか課題だったんです。安心感をどうもたせるかという「人研究」を進めた経験が、現在のStriemoのバランスアシストシステムに活用されています。

自宅ガレージでのプロトタイプから、社内外のアクセラプログラムを経て資金調達へ
―創業に至った経緯をお伺いできますか。

(森)大きなきっかけは、研究所から本社の経営企画部門へ異動になり、ものづくりができなくなったことです。そこから自宅のガレージを作業場にして、時間を見つけては、マイクロモビリティの試作を自費で始めるようになりました。

最初は夏休みの宿題ぐらいの感じですが、0⇒1の領域は言語化できないところ、とにかく試行錯誤しながらやっていました。3台目あたりから、これはちゃんと作り込めば価値が出せるものになりそう…と思えてきたので、本格的に事業化を検討し始めました。ただ、社内事業として立ち上げるには、マイクロモビリティは現時点では小さな領域、不確定要素も多く、規制も多い。これは外にでて動いた方がいいということで、社内にある新事業創出プログラム”IGNITION”に応募しました。

“IGNITION”とはどういう取組なのでしょうか。

(森)2017年から始まっているアクセラプログラムですが、近年ではHondaの出資比率を20%未満とした「起業」という出口が加わり、ベンチャーキャピタル等のアドバイス・支援を受けながら事業化を目指す取組です。プログラム申込には選考があったのですが、いきなりプロトタイプ車両を持ち込んで事務局メンバーをファンにすることからスタートしました(笑)。

プログラム期間中は自身の業務も行いながら、半年ぐらい掛けて下調べ、事業計画の検討などを行い、VCからの出資の目処が付いたタイミングで、起業することとなりました。

VCからの出資を得るまでに、どのようなことがありましたか。

(森)やはり、スタートアップ経営者として足りない部分は何か、色々と気付かされました。最初、VCにピッチをした時に使用した資料が社内向けの報告資料のような内容だったんです。ピッチを見たVCから「そんなサラリーマンの考えでは絶対失敗するね」というコメントをもらったことを今でも覚えています。そういったアドバイスを受けながら、事業計画を練り直していく中で、出資先を見つけることができました。

今の経営チームは、どういうタイミングで集まったのでしょうか。

(森)取締役は3名で、私森がCEOとして全体統括、出向元の同僚だった岸川がCDOとして技術・デザイン面を担当、創業後に社外からジョインした橋本がCOOとして事業開発全般を担当しています。岸川は、ガレージ時代からプロトタイプにアドバイスなどをしてもらっていました。また橋本は、ハードウェアに特化した社外のアクセラ”HAX Tokyo”に参加した際に出会ったのがきっかけです。

(岸川)私も、森と同様フルコミットでこの事業に参画しています。その中で、やはり技術開発系の二人で創業したこともあり、ビジネス側の人材を採用しなければ…と考えているなかで、HAX Tokyoを通じて橋本さんに出会えました。

(橋本)HAX Tokyoの日本側のGMとして各社のサポートも担当しており、そこでストリーモ社を担当しました。森さん、岸川さんの考えや技術の良さもありますが、大きな課題解決へ繋がるストーリーが見えて、自身も関わっていきたいと思うようになりました。これが大企業内のプロジェクトだとしたら、会社を辞めてジョインするまでは至らなかったかもしれません。スピンオフしたスタートアップとしての可能性も感じてジョインしました。

代表の森氏(前方中央)、森氏右側から順に橋本氏、岸川氏
Striemoをモビリティの中の1ジャンルとして確立させたい
現在のプロダクト開発の状況はいかがでしょうか。

(森)現在、300台限定の予約販売を受け付け、そこに向けた1stロットの製造や次世代機の開発を進めています。この製造は台湾企業と一緒に進めているのですが、部品と図面をもって台湾に飛び、1.5ヶ月ほど台湾に滞在し、現場で試験、仕様整合と図面変更の繰り返しを行っていました。そんなスピード感ある即断即決ができるのも、スピンオフ企業ならではだと思いますね。

スピンオフする前後で、ご自身の気持ちの変化はありますか。

(森)社内にいたころは、どうしても社内も見ながら仕事をせざるを得ないし、一度決めたことを状況に合わせて変化させることにも労力を割いていた感覚がありました。今はお客様を見て、声を聞いたり、さまざまな情勢に合わせて、アジャイルに行動できている実感があります。また、余計なことを考えずに価値を届けることに集中できているので、純粋に楽しいですね。

最後に、今後、実現したいビジョンを教えてください。

(森)今年は、まず現状のプロダクトをお客様に届けて、フィードバックをもらい、どういう方がどういうモビリティを求めているのかを特定していき、ファンの獲得とブランド構築を進めていきたいと思います。現状、日本とフランスをターゲット市場としておいており、それぞれモデルケースを作っていきながら事業領域を探索していく予定です。

目指す所として、自転車、自動車、バイク…というモビリティのジャンルの中に、当たり前のようにStriemoを存在させたいんです。そこに至るには、安心・安全は最低限必要。そのうえで、マイクロモビリティならではの気持ちよさ、心地よさ、外に出てみたいと思わせる散歩のような気軽さ、そういった価値を提供できるモビリティでありたいなと。ただの乗り物ではなく、コミュニケーションツールとしても使える存在として根付いていくところを目指したいと思います。

森 庸太朗氏

もり ようたろう

代表取締役 CEO

自己紹介/略歴:

2004年本田技術研究所に入社、二輪シャシー設計部門にて自転車およびオフロードバイクの量産/レース開発を経験。ダカールラリーでは設計責任者を務める。
その後ライディングアシスト技術の研究や新領域への挑戦を経て、本田技研工業経営企画統括部で新規事業開発に従事。
2021年8月ストリーモを設立。博士(工学)

Profile Picture
「バランスアシストシステムを活用した電動マイクロモビリティ開発事業」について

Striemoはユーザーの「安心感」を第一とした新たな移動体験を提供する電動マイクロモビリティーです。

バランスを取ることへの不安軽減や、自然な乗車体験を提供するノウハウを活かし、ユーザーが余裕を持って、周囲に配慮し運転ができます。
2023年以降には欧米市場へ展開し、将来的には世界中で高齢者を含めたより多くの人が安全かつ容易に使える「マイクロモビリティーの新しいスタンダード」を目指します。

会社概要

所在地東京都墨田区八広4-36-21 Garage Sumida
問合せ先contact@striemo,com
WEBサイトhttps://striemo.com/