白澤 光純氏(株式会社コンクルー)
Q.これまでのキャリアについて教えてください。
大学院にて重力波という宇宙物理学分野の研究をしており、その後新卒で日揮株式会社(現:日揮ホールディングス株式会社)に入社しました。
入社当初はプラントの制御システムエンジニアとして、主に海外のLNGプラントや石油精製プラントの制御システムの設計・調達・工事管理業務、IT系の部署へ異動して社内のデータ蓄積基盤開発に従事し、現在の新規事業開発を行う部署へ異動しました。異動後は、IT系新規事業であるプラント災害リスク管理Webサービス事業や建設現場向けのピアボーナスサービス事業の開発に携わりました。
Q.今回、出向起業にて実施される新規事業のアイデアはどのように着想されたのでしょうか? 何かきっかけとなった出来事などがあれば教えてください。
3年ほど前、担当していた事業の調査で宮城県石巻市にあるバイオマス発電所の建設現場に行く機会がありました。そこで30人ほどの職人さんから現場の課題についてヒアリングを行ったところ、ほぼ全ての職人さんが一番の課題として挙げたのが「収入の低さ・不安定さ」、それだけでなく「できればすぐにでも別の仕事をしたい。こんなに安定していない仕事だと続けている未来が見えない。」とまだ20代の若い職人さんが仰ったんです。
海外の建設現場の状況と比べても日本の職人さんの腕の良さ、優秀さは知っていたつもりでしたが、そういう人たちが不安を感じるほどの収入環境にいることに驚きを隠せませんでした。
国土交通省の調査では、建設職人の65%が日給制で働いており、天候や資材が届かない等の現場都合でも仕事が休み=収入減という状況に置かれています。すでに職人不足が深刻な建設業界ですが、さらに2030年までに78万人以上の建設職人が高齢化により引退すると言われ、未だこの問題に対する根本的な解決方法は見つかっていません。このままでは日本の建設業界には暗い未来しか待っていないと感じ、この建設職人の収入環境を改善するための事業企画を始めました。
当初は直接的に職人さんの収入環境を改善できるサービスとして、急に空いた日でも働けるように単発短時間工事のマッチングようなサービスを考えていました。ですが、工事発注側となる中小建設会社の方と課題やニーズについてヒアリングする中で、建設会社側では繁忙期等の必要な時に職人が見つからず、引き合いがあっても受注できないという課題だけでなく、受発注業務などの日常的に行われるそもそもの業務が効率的に行われていないことに気づいたんです。
既存の業務管理ツールの多くは大規模な建設会社向けになっています。そのため、中小建設会社には不必要で複雑な機能が多く、最初から導入していなかったり、導入していても見積作成や原価管理に使う業務管理ツールと、職人さんとのコミュニケーションや図面や社員の共有に使う施工管理ツールを別々で導入しており、情報の二重管理や二重入力等の無駄な手間が発生していました。そこで建設職人側だけでなく工事発注側の中小建設会社も含め、全体をより最適化して同時にそれらの課題を直接解決できるサービスにしようと考えました。
Q.アイデアを事業化、出向起業へと行動に移された理由を教えてください。
これまで国内外の大小様々な建設現場に関わり、改めて日常生活で生じる水回り工事等の小さなものから、東京ドーム数十個分という巨大なエネルギープラントの建設工事まで、規模も種類も幅が非常に大きいものづくり産業であるということを肌で感じてきました。住宅も、商業施設も、道路も、モノを作る工場も、電気・水道・ガス等のインフラ施設も、我々の暮らしの礎は全て建設業によって造られており、ひいてはその産業に従事する建設職人が支えています。
あらゆる社会生活や経済活動を行う上で無くてはならない産業なのですが、全産業で最も人手不足が深刻で、最もIT化が遅れている産業でもあり、実際、既存の建設業務管理ツールを調査する中で、特に中小の建設会社が取り残されていることに気づいたんです。自社サイズに合った製品が無いため、昔からずっと同じやり方で業務を行ってきた結果、業務効率が30年前とほとんど変わっていない。それが建設職人の収入の低さ・不安定さに繋がり、そして人手不足が深刻化してしまっていると感じました。
国内外の幅広い建設産業に携わってきた経験、そしてIT開発や事業開発の経験。自分のこれまでのキャリアを通じて得た経験を活かし、この課題をテクノロジーの力で解決したい。そう考えて起業を決意しました。
Q.出向起業制度の活用にあたって、社内調整はどのように進めめられたのでしょうか。
本事業のようなプラットフォーム型事業の場合、拡大期にはユーザーを一気に増やしていく必要があることが予想されます。主に広告費のために大きな投資も必要になってきますが、社内では既存の顧客基盤等もなく、またプラットフォーム事業の経験者やノウハウもない無い中でそこに多額の資金やリソースを投じるのは難しいという判断となりました。
そういった背景もあり社内での事業化は難しく、起業して事業化することを選びました。出向起業の活用にあたっては、所属する部署の部長が会社の執行役員だったこともあり、社内調整は特に苦労することなく比較的スムーズに進めることができました。
Q.出向起業への応募に対して、周囲の方の反応はいかがでしたか。
私がこの建設業界の課題解決に情熱を持って取り組んでいるということを知ってることもあり、多くの方が応援してくれました。特に直属の上長や同じ部署の先輩はこれまで困った時に何度も解決策を一緒に考えてくれたり、事業に関連する人を紹介していただいたりと、これまでもずっと応援していただいており、非常に喜んでくださいました。
社内だけでなく現在開発に協力していただいている工務店の方や職人さん含め、本事業に共感してくださる方々の支援があるからこそ、この事業を前に進めることができている。今、そのありがたさを心の底から実感しており、本当に私は人に恵まれていると感じています。こういった社内外で応援していただける方々にしっかり恩返しできるよう、必ずこの事業を成長させていきたいと思っています。
家族や友人も、ほぼ全員が非常にポジティブに捉えてくれています。 中には手伝いたいといってくれる方もおり、非常に有り難く感じています。
Q.今後はどのように事業を展開していく計画か教えてください。
まずは現在開発している中小建設会社向けのオールインワン業務管理ツール「コンクルーCloud」を市場にフィットするプロダクトまでしっかりと昇華させ、営業やCSのオペレーション含めちゃんと事業が回る状態を作り出すことに集中します。
また同時にビジネスモデルとして、そして技術的な優位性を築いていきつつ、中小建設会社や建設職人のあらゆる業務をアップデートするサービスやプロダクトを展開していきたいと思っています。
例えば資材の購買業務においては、今でもExcelで作られた見積書や予算書をもとにFAXや電話を使って各材料業者に注文がされており、非効率な業務になっています。当社のプロダクトには業務管理ツールという性質上様々なデータが入ることになるので、アプリ内で見積書や予算書を作成するのと同時に購買業務も完了している、そんなサービスを提供することも可能になります。
Q.まず実現したいこと、目標やビジョンがあれば教えてください。
今は当たり前となっている会計ソフトも昔はERPに組み込まれた大企業向けのハイエンドのものや高価で使いづらいパッケージ型の会計ソフトしかありませんでしたが、2010年代になり、クラウド型の会計ソフトが出てきて中小企業や個人事業主にも一気に広がりました。2024年問題への対応を皮切りに、これと同じことがIT化率が最も低く中小企業比率が最も高い建設業界の業務管理ツールにも起きます。
「全ての中小建設会社と職人にテクノロジーの恩恵を届ける」ことが当社のミッションです。
これまで取り残されていた中小建設会社のあらゆる業務や経済活動をテクノロジーの力でアップデートし、誰一人取り残すことなく、その変革された新しい建設業界の標準とされるプロダクトやサービスを社会実装し続け、建設業界の明るい未来を作っていきます。
Q.出向起業にあたっての意気込みをお聞かせください。
起業というのは「自分たちのやりたい方法で、作りたい世界を実現するための手段の一つ」であると考えています。
おこがましいかもしれませんが、本事業が成長すればするほど、建設業界の未来が良くなる、明るい未来になると本気で信じており、その実現のために起業しました。
コンクループラットフォームというテクノロジーの力で、全ての建設業従事者から良い仕事、良い産業と誇ってもらえる、そんな未来をより早期に実現させるために、これからも引き続きスタートアップとして事業の急成長のみに集中していきます。
「中小建設会社特化のオールインワン業務管理サービス「コンクルーCloud」」について
近年、人手不足と業務効率化対応の遅れにより、建設業の倒産件数は急増しています。特に従業員の少ない小規模の建設会社では、対応業務ごとに複数のツールを組み合わせて使うと費用対効果が低くなってしまうことから業務効率化ツールの導入が進んでいません。
「コンクルーCloud」は顧客管理から、案件管理、見積作成、原価管理、職人探し、受発注、施工管理等あらゆる業務に対応し、また少人数で使いやすく1人の担当者が業務横断で使うことに特化した作りとなっており、低コストで圧倒的な業務効率化を実現します。
本事業を通して、国内のみならず世界中の中小建設会社と職人を支えるプラットフォームを目指します。
白澤 光純氏
代表取締役CEO
自己紹介/略歴:
2017年、日揮株式会社(現:日揮ホールディングス株式会社)に新卒入社。
インドネシアやクウェートに駐在し、複数の海外プラントEPCプロジェクトに従事。 その後、新規事業開発部に移り、複数のIT系新規事業開発を担当。
2023年に株式会社コンクルーを創業し、代表取締役CEOに就任。
会社概要
所在地 | 東京都品川区西五反田8丁目2−12アール五反田 7A |
問合せ | contact@concrew.jp |
WEBサイト | https://www.lp.concrew.jp/corp |